約束を守った猫の話
寝屋川市医師会会報(平成16年1月号)
寝屋川市医師会堤  俊 郎

※猫の話が載っていましたので転載しました。
 「犬と猫とどちらがよく約束を守るか」と質問したら、おおかたの返答は 「そんなの当然、犬の方だよ。転宅した忠犬ハチ公が主人を迎えに300里も走って帰った詰もあり、犬は忠実で誠意があるけれど、猫でそんな話、聞いたことがない。大体、忠犬という言葉は有るが忠猫という言葉は無い。化猫の昔から猫は誠実性に欠け自己主義で、約束など簡単にほごにしてしまうよ」とあまり評判は良くありません。しかし猫だって約束を守るよ、まずそのお話から始めます。

 「カモメに飛ぶことを教えた猫」という本で世界的ベストセラーのひとつです。作者はイタリアの人気作者・ルイス・セプルベダ氏で、彼は1949年、南米チリの生まれです。
実はこの本、私が新聞広告を見ておりました時に、たまたま中條鉄子先生のお嬢様が夏休みに読んでおられるとの記事を寝屋川市医師会会報で拝見したことを思い出し、早速本屋さんにお願いしたのです。お読みになった方もあると思いますが、部分的にご紹介していきます。少し長くなり申し訳ありませんがお許し下さい。

 全編、大変温かい、ほのぼのとした記事でうずまっております。「葉っぱのフレディさん」程哲学的ではありませんが。まず書き出しは「『発見、左前方にニシンの群れ!』見張り役のカモメが叫んだ。すると大空を行くカモメの群れがいっせいにほっとしたような鳴き声を交わし合った。カモメたちはもう6時間も休むことなく飛び続けている。先頭係を務めるカモメたちはみんな、海の上を吹く暖かな風の流れに乗って飛べるようにリードしてきたが、そろそろひと休みして体力を回復したほうがいいと感じ始めていたところだった。そしてそのためには何といってもニシンをたっぷり食べるのが一番だ」という一節から始まります。

カモメらは何日も前にオランダのテレ、ヘルデルからフリージア諸島のカモメの一団と合流し、イギリス海峡を通りフランスのセーヌ湾に入り、そこから大西洋岸に出てスペイン北部のビスケー湾まで南下するのです。

 ここで少々話は変わりますが、もう一方の主人公である「太った真っ黒な猫」 のゾルバがハンブルクの漁港の海辺である日のんびりと日光浴をしております所へ、カモメの一行と一緒に飛んでいた1羽がやって来ました。

海中でニシンを捕るのに夢中になって、海面に流されている重油に気が付かず、銀色の翼も目も口も真っ黒になり、飛び上がることはもちろん、口も利けず、やっとのことで岸辺にはい上がり、うずくまっておりました。                                                                  
カモメの名前はケンガーと言います。この様子を見たゾルバはそばへ駆け寄り、手当たり次第、近くにあるものでカモメの体をふいてやりました。そうしてゾルバは心配そうな顔をして毎日毎日カモメを見つめておりましたが、食も取れず水も十分取れないケンガーは日に日に弱ってゆきました。ケンガーはゾルバに「私はここで卵を産みますが、絶対に食べないで下さい。

それからその卵を雛がかえるまで育てあなたの肌で暖めて、かえった雛も食べないで育てて下さい。1人前に大きくなったら、あの岸辺の崖から大海原に飛び立つまで飛ぶことを子どもらに教えてやって下さい。お願いします」と言って息が絶えました。

 ゾルバは託されたこの3つの約束を果たすため、それから苦心惨憺するのです。今まで卵を抱いて温めたこともありません。港にはたくさんの犬や猫、無数の餌に飢えているネズミの集団もおります。ゾルバはそこで港一番の百科事典を愛読する「博士」と港を徘徊するちんぴら猫どもににらみのきくボス猫でもある首領の「大佐」の所に行き、いろいろ相談しました。とにかく卵を毎日毎日、自分の肌で温めることが先決です。3週間ほどしてお腹の下の所でことこと音がするので眠っていたゾルバが目を覚ましますと、かもめの雛が卵の割れ目から小さいくちばしを出して鳴いております。何かほしそうにしておりますので、台所に行き、鰯のすり身を持ってきました。

 6羽もおりますので大変です。一度に6羽の雛のママになつたゾルバは毎日毎日、餌やりをしたり、雛を攻撃してくる獰猛な猫族、それに港の各所に巣くつている鼠族の大群から雛たちを守ったりしなければなりません。

 とにかくこれで2つの約束はクリアしつつあるのです。ひとつは卵を食べなかったこと、もうひとつは卵を温め雛をかえし、その雛を悪戦苦闘して一人前のカモメに育てることを実行しているのです。

 話が長くなり申し訳ありません。一冊の本を要約するのがこのように手間がかかることとは思いませんでした。駄文ばかり述べておますがお許し下さい。

それから幾月かが過ぎ、いろいろなことがが、ゾルバの懸命の努力や「博士」野 や「大佐」の適切なアドバイスにより、雛らはすくすくと成長し、6カ月もたつと見違える程立派なカモメに成長しました。いよいよ大海原に飛び立つ日も近付き、そのための練習を始めねばなりません。

 ゾルバは大空はもちろん、屋根から飛び下りることも苦手です。それでもなんとかして6羽とも飛び立たさねばなりません。その中には、好物のイカを毎日食べすぎて肥満児になったフオルトウナータもおります。彼にはとても長距離の飛行は無理です。飛び出して20〜30メートルゆくのがやっとです。ゾルバは彼に毎日、体重の減量と飛行練習を命令しました。そうして幾月かして、彼も皆と一緒に飛べるようになり、ある暖かい春の一日、いよいよ6羽の雛が一勢にイギリス海峡目指して飛び立つ日が来ました。

 ゾルバは大空を舞うカモメの姿を見守り続けました。空に向けたその澄んだ黒色の瞳をぬらすものが雨なのか、涙なのかは分かりませんが、やさしく気高い、港の猫の中の猫です。太った真っ黒な猫ゾルバは、いつまでもいつまでも大空を見つめておりました。

 約束を決心したり実行することはさほど困難ではありませんが、良き成果を上げることはなかなか難しいです。小泉総理がんばって下さい。
 1億2千万人の国民とともに神のお恵みのもとに。
『グース』という映画に似たようなストーリーですな・・・。