新しい抗結核薬開発の展望 富岡治明 結核77(8):573−、2002 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1.リフアマイシン,キノロンおよびマクロライドに関連した主な新知見 (1)リフアマイシン 新リフアマイシンとしては,rifabutin(RBT),rifapentine(RPT),rifalazil(RLZ:旧名KRM−1648),ならびにFCE22250などの種々の薬剤が開発されあるいはその途上にある。最近RBTについては,AIDSウイルスに対するHAART療法との併用レジメンがAIDS患者での結核やMAC症に有効であることが,またRLZについては,マクロフアージ内局在薗に対して優れた殺菌カを有しており,結核菌に対してはキノロンとの間に,MACに対してはclarithromycin(CAM)との間に併用効果が認められることが報告されている。 RLZについては,現在米国でActivBiotics社により第U相臨床試験が進められようとしている。なお,結核症に対するRLZの臨床治療効果についての最近の報告では,RLZの週1回投与+INHの1日1回投与レジメンは,RFP,INH各1日1回投与レジメンに比べて, @喀痰中への排菌抑制効果が増強していること, A殺菌効果は同レベルであること,さらに, B副作用は軽度であることなどが明らかにされている。 (2)キノロン 近年,多くのフルオロキノロンが開発されてきているが,特に抗酸菌感染症への適用という観点からは, 1evofloxacin(LVFX),Ciprofloxacin(CPFX),sparfloxacin(SPFX)などが挙げられる。これらキノロンは,米国を中心に多剤耐性結核などの難治性結核に対する併用療法に適用されている。 最近では,moxifloxacin(MXFX),gatifloxacin(GFLX),sitafloxacin(STFX),DQ−113,さらにMXFXと同様に8位にmethoxy基を導入しgyrase A変異によるキノロン耐性菌に対する抗菌力を高めたPD161148などの開発が進められている。ところが, @ グラム陽性菌に対する抗菌力に優れるWQ−3034やHSR−903の抗酸薗に対する抗菌力はLVFXよりも劣っており,グラム陽性菌に対する抗薗力と抗酸菌に対する抗菌力は常に連動するという訳ではないこと, A 同じキノロン間では交差耐性があり,薬剤耐性菌の出現が問題であること, B post antibiotics effectは,RFPの1/10以下であること, C マクロファージ内局在結核菌に対しては,リフアマイシンやINHとの間に併用効果が認められるものの,MACに対するキノロンの抗菌力は,リフアマイシンやCAMとの併用で減弱する傾向があることなどが報告されてきており,こうした抗結核薬・抗MAC薬としてのキノロンの問題点がやや気に掛かるところである。 なお実験的マウス結核症に対しては,INH+RPTにMXFXを加えたレジメンは,INH+RPT+SMのレジメンより優れた活性を有しており,治療終了後の再発率も低く,MXFXはSMの代わりのfirst line drugになり得る可能性があること,また最近,SPFX+KM+THのレジメンが,初回標準方式の治療に失敗したMDR−TBに有効であることが報告されているが,他方,MDR−TB患者よりの分離株の5l%はCPFXやOFLXに耐性であり,これらのキノロンはもはや結核の2nd line drugとしても有用ではないのではないかと考える研究者もいる。 いずれにしても,わが国を含めてキノロンの抗結核薬への応用研究は,抗結核薬としての需要の少なさ,薬価の低さ,さらに,一般に副作用は軽度であるとは言うものの,長期投与に伴って派生する耐性菌の出現や蓄積毒性などの問題も絡み,若干手詰まりな状況にあることも否めない。 (3)マクロライド CAMをはじめとして,azithromycin(AZM),roxithromycin(RXM)などが,MACに対する抗菌活性に優れており,AIDS患者での菌血症を伴う全身播種性MAC症の治療・予防に有効である。また後述するごとく,telithro−mycinやABT−773などのnew ketolideにも,マウスMAC感染症に対してCAMと同等あるいはそれ以上の治療効果が報告されている。 特に,CAMについては, @INH+RFP+EBの組み合わせにCAMと14−hydroxyCAMとを併用することにより,多剤耐性結核菌に対しての抗菌力が相乗的に増強されること16), Aマクロファージ内局在MACに対しては,CAMとリフアマイシン(RFP,RLZ)との組み合わせでの優れた併用効果が認められること, BAIDS患者へのCAMまたはAZM単独,あるいはAIDSウイルスに対するHAART療法とAZMとの併用投与は,播種性MAC症の発症予防に有効であることなどが報告されている。 2.その他の新規抗結核薬の開発状況 (1)米国での抗結核薬screeningprqject ・・・・略・・・・これまで多くの研究者により種々の新規抗結核薬のスクリーニング・開発が進められてきており,Medlineで調べたかぎりでも,結核やMACに抗菌力を有する30種類以上の化合物が報告されている。 (2)開発中の新規抗結核薬および抗MAC薬 ・・・・略 Oxaolidinone,nitroimidazole,PZA誘導体(特にpyrazinoicacidester)などが特に有望な薬剤である。いずれも結核菌に有効(MIC=0.08〜1μg/mgl)であるが,特にoxazolidinoneについては, @結核菌に対するMIC値ではeperezolidの0.25μg/mglからPNU−100480の1μg/mglと比較的抗菌力に優れること, A結核菌感染マウスに投与した場合は,PNU−100480(100mg/kg)が最も優れた治療効果を示し,これはINH(25mg/kg)に匹敵すること,さらに, BPNU−100480とINH,RFPとの間には併用効果が認められることが報告されている19)。なお,nitroimidazole(CGI17341)は多剤耐性結核菌にも有効であり注目に値する。 次に,Table2に挙げたものの中ではamoxicillin(AMPC)やceftriaxoneなどのβ−ラクタム剤とclavulanicacid(CVA)やsulbactamなどのβ−1actamase阻害剤との併用レジメ ンが多剤耐性結核菌に有効である(AMPC+EB[sub MIC]+CVA併用でのAMPCのMIC97は≦0.5μg/mgl)。さらに,2−Pyridone,Pyrole誘導体(BM212)や真菌や原虫に有効なmiconazole,niclosamideが,結核菌に対しても強い抗菌力を有しており有望である(MIC=0.016〜6.2μg/mgl)。特に2−Pyridone(ABT−255)については,RFP耐性菌結核菌に対してもMICが0.016〜0.032μg/mglとかなり抗菌力が強く,またRFP耐性結核菌によるマウス結核症に対しても優れた治療効果を示しており,今後の動向が注目される。 Table 1. Promising new antimicrobial agents with activity against M tuberculosis (MTB) and MAC (1)
Table3に挙げたものの中では,新riminophenazineが,MIC90が0.12〜0.25μg/mlと結核菌に対する抗菌力に優れ,またclofazimine(CFZ)にみられる皮膚への色素沈着という副作用も軽減されている。また,nitroimida−zopyran(PA−824)が有望祝されている。この薬剤は,同じnitroimidazole系薬剤であるmetronidazoleと同様に,嫌気性条件下で抗菌作用を発揮する性質があるため,休眠型の結核菌に対して強い抗菌作用を示すと言う。こうした性質は,INHや同じnitroimidazole系薬剤であるCGI17341には認められない。またPA−824は,モルモットやマウスの結核症に対してINHとほぼ同程度の治療効果を示し,多剤耐性結核菌に対しても,MIC値が0.03〜0.25μg/mlと優れた抗菌力を有している。現在,この薬剤については,The Global Alliancef for TB Drug Developmentが後押しをしての開発が進められつつあり今後の動向が注目される。 次に注目されるのは,EB誘導体のnew ketolideであるが(Table3),なかでもABT−773とtelithromycinが有望である。ABT−773は,広い抗菌スペクトラムを有し,マクロライド耐性菌に有効である。 またtelithromycinは多剤耐性(特にマクロライド耐性)肺炎球菌を含むグラム陽性菌,Legionella,Toxoplasmaなどに特に有効であり,貪食細胞内への移行性に優れている。これらのnew ketolideのin vivo抗MAC抗菌活性は,ABT−773ではMIC50=8μg/mlとCAM(MIC50=2μg/ml)よりもやや弱く,telithromycinではさらにMIC50=1286μg/mlと劣っている。しかしながら,マウスMAC感染症に対してはかなり優れた治療効果を示し,highdoseでは殺菌作用が認められる。また12週間の長期に及ぶ単独投与においても,耐性菌の出現頻度は低く,この点では他のマクロライド系薬剤に比べて優れているようである。他方,ABT−773もマウスMAC感染症に対して,CAMよりもやや優れた治療効果を示している。これらのnewketolideについては,今後のより詳細な基礎研究と臨床試験が望まれるところである。 結核菌の仝ゲノムの決定以後,Table4,5に示すような新しいstrategyでの抗結核薬の開発研究が盛んになりつつある。 Table2 Promising new antimicrobial agents with activity against MTB and MAC(2)
3.新しいstrategyでの抗結薇薬の開発状況 Table3 Promising new antimicrobial agents with activity against MTB and MAC(3)
(1)殺菌性ペプチド 殺菌性ペプチドが有望祝されているが,特にdefensin(HNP−1)は,結核菌に対してMIC値が2.5μg/mlとかなり抗菌カに優れ,マウス結核症にも有効であると報告されており注目に値する。 (2)新しいタイプの標的部位に働く薬剤 結核薗の全ゲノム情報を利用して,結核薗の側の新しいタイプの標的部位に着目しての新抗結核薬開発を進めようとする試みが注目に催する。 第一に,dTDP-rhamnose合成系をtargetにしての抗結核薬のスクリーニングが行われており,新しい試みとして評価できる。dTDP-rhamnoseは結核菌のarabino−galactanの重要な構成成分であるが,このものの合成にかかわるα-D-glucose−1-phosphate thymidylyltransferaseやdTDP−glucose dehydrataseなどの4つの酵素(Rm1A〜RmlD)を標的にする抗結核薬は未だに開発されていない。最近,8,000種類の化合物からスクリーニングされたdTDP-rhamnose合成阻害活性を示す薬剤の結核菌に対する抗菌力を調べた成績が報告されているが,化合物No.5372がMIC値で16μg/mlJとある程度の抗菌力を示している。未だ不十分な結果ではあるが,このstrategyでのスクリーニングにより,将来的にはかなり有望な抗結核薬が開発されることが期待される。 第二に,antisense oligo DNA(antisense DNA)の利用が有望である。Harthら)の検討では,結核菌のgluta−mine synthetaseを標的として,この蛋白をコードする遺伝子に対するantisense DNAを結核菌に作用させた場合,酵素活性と増殖能に弱いながら有意なレベルの阻害が認められている。著者らも,マクロファージの抗酸菌に対する酸素依存性殺菌メカニズムからの薗のエスケープに重要な役割を果たすとされるoxyR遺伝子とahp遺伝子に対するantisense DNAでMAC菌を処理することによって,マクロファージの殺菌エフェクターの1つであるH202−halogenation systemの殺菌作用に対する菌の感受性があるいは増強するのではないかと考え,若干の検討を行っているが,期待したような成績は得られていない(未発表データ)。 著者らの成績を含め,結核菌やMAC菌をantisense DNAで処理した場合,標的遺伝子でコードされる蛋白質の発現抑制は十分なレベルには達しておらず,ひいては満足のいく菌の増殖阻害効果が得られていないようである。この原因としては,結核菌やMAC菌の堅牢な細胞壁がantisense DNAに対するバリアーとして働いた可能性が考えられる。Harthら)によれば,EBやpolymyxin Bによる処理で細胞壁を"softening"させることや,antisense DNAをamikacin moietyにconjugateさせることによって,antisense DNAの菌体内への移行性を高めようとする試みは功を奏さなかったということであるので,別の方法を開発していく必要があろう。現在教室では,antisenseDNAの菌体内への透過性を増すために,antisense DNAにRFPやRLZなどの1ipophilicな抗結核薬をconjugateさせてtransporterとしての働きを担わせる方法や∴結核薗フアージを利用してantisenseDNAを効率よく菌体内に取り込ませるといった方法などを検討中であるが,菌体内へのuptakeの問題が解決できれば,antisense DNAは抗結核薬としてかなり有望なのではないかと考えられる。 第三に,今後有望なtargetとしては,結核菌のglyoxy1ate shunt,ミコール酸合成系,あるいはphthiocerol dimycocerosateのtransportなどに関わり,菌のマクロファージ内でのpersistencyや生体組織中での増殖能を左右するicdpcaA、mma4遺伝子やmmpLファミリー蛋白などが挙げられる。現在,一般細菌に対する抗菌薬の開発研究は,ゲノム情報をもとにジェネティツク・フットプリンティング法やantisense RNA,あるいはDNAアレイを用いての薬剤標的候補の選択,フアージディスプレイ法による相互作用蛋白の同走といった新しい方法を駆使して精力的に進められている。今後は,抗結核薬の開発研究もこうしたstrategyの下に進められていくことになるものと思われる。 (3)Dmgdeliveryを高める薬剤 次に有望なstrategyとして,Table5に示すようなdrug deliveryを高める薬剤の開発がある。その1つに,抗菌薬の細胞壁透過のためのshuttle vectorとしてmycobactinなどのシデロフォアを利用するという試みがある。また,マクロファージ内への移行性の増強,血中・臓器内薬剤濃度の高レベルでの維持を目的としての,ミクロスフェアの利用という試みも有望である。例えば,ミクロスフェア(poly[Dし1actide−CO−glycolide])(以下PLG)に封入したRFP,INHでは,投与後の臓器内レベルが長期間にわたって高レベルに保たれるようになるが,これに伴い,PLG内に封入したINHやRFPは,freeのものに比べてマウス結核症に対してより強い治療効果を示すようになる。 さらに,PLG内封入RFPは,free RFPに比べて,マクロファージ内局在結核菌に対してより強力な抗菌作用を及ぼすことも報告されている。 Table 4 Screening for antituberculous drugs by new strategy(1)
Table5 Screening for antituberculous drugs by new strategy(2)
(4)Immune response modifier Im−γ,Tし2,GM−CSF,Tし12などのサイトカインを用いてのa4juvantclinicaltherapyの他に,TableSに示すような宿主感染免疫能の増強を目的としての新しいタイプのimmuneresponsemodi滋erを併用するレジメンが有望である。なかでも,ATPがその作用の特殊性からみて注目に値する。ATPおよびその誘導体はp2レセプターを介して様々な細胞に作用しているが,例えばATPは血管内皮細胞に作用しNOS3発現を増強し,ひいてはnitricoxide産生の瓦進を介して血管平滑筋を弛緩させることにより,虚血性疾患における血流動態の改善に寄与することが知られている。ところで,このATPとその誘導体には,P2レセプターを介するM¢の結核菌に対する殺菌能の増強作用が報告されている35卜39)。ATP処理を受けたM¢では,細胞内に局在するBCG菌が速やかに殺菌されていくが,この現象はATPによって誘導されるM¢のアポトーシスと並行している3S)。また,このようなM¢内でのBCG菌の殺菌とM¢のアポトーシスは,ATPやP2]フレセプターとの結合能の高いP2]7レセプターのagonistであるbenzoylbenzoicATP(BzATP)やATPγSにより強く誘導されるが,その他のヌクレオチドでは誘導されない3S)。さらに,ATPによるM¢抗菌活性の増強作用は,P2]7レセプターヘの結合能の高いATP4 ̄の除去に働くMgイオンやp2]7レセプター阻害剤である0]idizedATP(oATP)により強くブロックされる37)。以上の成績から,ATP処理によるM¢の抗マイコバクテリア抗菌活性の増強にはp2レセプター,特にP2]7レセプターの関わりが重要であることが明らかである。 著者らも,ATPのM¢の抗MAC活性に及ぼす作用について同様な検討を試みているが,ATPまたはBzATPでM¢を処理した場合,これらのヌクレオチド単独では効果はみられないが,さらにCa2+イオノフォアを併用して作用させることにより,M¢の抗MAC活性が有意に増強されることを明らかにしている。この成績は,Stoberら38)の報告とよく符合している。また,培地中にCAMとRFPとを加えた系でのM¢内でのMAC菌の殺菌プロフィールについてみたところ,M¢にCa2+イオノフォアとATPを作用させてもM¢のMAC菌に対する抗菌活性が特に増強する傾向は認められなかったが,Ca2+イオノフアとBzATPを作用させた場合では,M¢抗菌活性がさらに増強されるという興味深い成績が得られている(未発表データ)。 さらに,マウスMAC感染症に対するCAM,RFPの治療効果が,ATPの併用投与でどのような影響を受けるのかについてみたところ,臓器内生菌数の変化を指標とした場合,感染4週目ではCAMとRFPとの合剤の治療効果が,ATPの併用投与で有意に増強することが,さらに脾では,ATP単独投与によっても生菌数の減少がみられることが明らかになった(未発表データ)。 以上の成績から考えて,ATPは抗酸菌症に対する抗菌薬の治療効果の増強を計る上で,有望な薬剤であるように思われる。ATPは血管拡張作用を有し,虚血性疾患の血流動態の改善に用いられているが,特に問題となるような副作用はなく,また安価な薬剤であるので,今後さらに詳細な検討を重ね,結薇痘やMAC症患者への適用の可能性を探っていきたいと考えている。 4.U型肺胞上皮細胞の抗酸菌感染症の発症における意義と化療との関連性 著者の教室では,新しい抗結核薬の開発との関連で,より有効な化療プロトコールの開発を目的として,抗酸菌感染の早期のステージでの菌の増殖の場としてのU型肺胞上皮細胞の果たす役割について検討を進めている。ヒトやマウスに限らず,結核や肺MAC症において,実際に感染菌がU型肺胞上皮細胞内にintemalizeしていることを示すような直接的な観察は未だなされていない。 そこで,著者らは結核菌またはMACを経気遣感染させたマウスの肺組織の透過電顕による観察を行ったところ,感染早期(2日後)では確かにU型肺胞上皮細胞に菌体が取り込まれている像が得られた。ところが,感染中期(14日後)になると,U型肺胞上皮細胞内には菌は認められず,肉芽腫性類上皮細胞内に多くの菌が認められることが分かった40)。以上の電顕の成績より,結核菌およびMAC菌とも感染早期には,確かにU型肺胞上皮細胞内に局在していることが明らかになった。 次に,dualchambersystemを用いての検討で,結核菌やMACに感染したA−549U型肺胞上皮細胞(A−S49細胞)からは,M¢の抗菌活性を増強させるような液性因子が産生されることが明らかになった40)。そこで,この液性因子を同走すべく,A−549細胞での各種サイトカインおよびサーファクタント蛋白の産生動態について検討したところ,結核薗やMACに感染したん549細胞ではTNトα,GM−CSF,MCP−1のmRNA発現がup−regulateされるが,IFN−γのmRNA発現は感染の有無にかかわらず認められないことが明らかになった。 ところで,TNF−αとGM−CSFにはM¢の抗菌活性増強作用が知られているので,次に,これらのサイトカインに対する抗体でのブロッキングテストを試みたところ,結核菌またはMACに感染したA−S49細胞からの液性因子によるM¢の抗菌活性増強作用は,抗TNF−α抗体と抗GM−CSF抗体,特に後者により強くブロックされることが明らかになった。従って,V型肺胞上皮細胞から産生されるM¢抗菌活性増強因子はGM−CSFとTNトげであるものと考えられる。 次に,MonoMac6M¢(MM6−M¢)とA−S49細胞内に局在する結核菌とMACに対するRLZ,LVFX,CAMの抗菌活性発現プロフィールについてみたところ,結核菌の場合では,LVFXのA−S49細胞内局在菌に対する抗菌活性が,M¢内局在菌に対する活性に比べて減弱する傾向が認められた。他方,MACの場合でも,RLZの抗菌活性発現のプロフィールについて同様な傾向が認められている。このように,M¢内あるいはU型肺胞上皮細胞内に局在する結核菌やMACの薬剤感受性は,部分的には互いにかなり異なったパターンを有しているものと思われる。従って,感染早期での化療のためのレジメンの決定に当たっては,こうした事情も勘案する必要があるものと考えられる。 次に,結横菌やMAC菌をM¢に感染させ,M¢内で増殖させることによりM¢内環境に適応させたT型菌を調製し,これをMM6−M¢またはA−549細胞に感染させた場合のRLZ,CAM,LVFXの抗菌活性発現のプロフィールについて検討した43)。なお対照としては,液体培地中で培養することにより細胞外の環境に適応させたE型菌を用いた。まず,MM6−M¢内局在菌に対する各薬剤の抗菌作用の発現プロフィールについてみたところ,いずれの薬剤ともT型菌に対する抗菌活性はE型菌に対する抗菌活性に比べて減弱する傾向を認めた43)。次に,A−549細胞内局在菌についての同様な検討を行ったところ,CAMとLVFXの場合では,上記の結果と同様にT型菌に対する抗菌活性はE型薗に対する抗菌活性に比べて減弱していた。他方RLZの場合には,これとは全く逆の成績,すなわち,E型菌に対する抗菌活性の方が,T型菌に対する抗菌活性よりも弱くなるという結果が得られた43)。 以上の成績より明らかなごとく,M¢やV型肺胞上皮細胞などの宿主細胞内に局在する抗酸菌については,一部の例外を除けば,おおむねE型菌の方がT型菌よりも抗薗薬に対する感受性が高いという傾向が認められる。 従って,主にE型菌が抗菌薬治療のターゲットとなる有空洞性の肺結核や肺MAC症患者での化学療法による治療効果の予測を,細胞内局在菌に対する抗菌力を指標として行う場合には,T型菌よりはむしろE型菌を供試するほうがより適切であるものと考えられる。 ・・・・・以下略 |