米国でのツ反について
Clinical Policies and Protocols Bureau of tuberculosis Control New York City Department of Health Vrd edition 1999より抜粋
A:ツ反対象者
 ツ反(Mantouxツベルクリンテスト)は感染の危険のある集団、感染している場合は発病危険のある集団に的を絞って行う。一般的に結核感染危険度の低い集団では偽陽性が多いのでツ反は行うべきではない。またツ反は以前にツ反陽性者には必要はない。
                   参考 :1908年Mantouxは皮内反応によって結核感染の有無の診断に用いた。

1. ツ反優先度
 以下の者に対しては結核感染の有無を調べるためにツ反が優先的に行われる。
  a. 肺結核・喉頭結核患者との接触者
  b. HIV感染者
  c. 他の医学的な結核発病の危険因子を有する者、例えば糖尿病、塵肺、長期ステロイド使用者、免疫抑制治療者、頚部・頭部のガン、網内系疾患(白血病、ホジキン病など)、糖尿病、腎疾患の末期、小腸または胃バイパス、慢性吸収不良症候群、低体重(標準体重の10%以下またはそれ以上)
  d. 胸部レントゲンで陳旧性あるいは治癒病変
  e. 病院、収容施設、ホームレスシェルター、ナーシングホーム、薬物中毒者治療センターのような集団生活施設(congregate setting)の雇用者または住人
  f. 結核蔓延国(付録A参照p109)から来た人たち、特に米国へ入国して5年以下のもの

 加えて 、ツ反は症状と、または臨床所見、レントゲン所見を有する患者、または塗抹陰性患者では診断手段として有用である。これらの患者でのツ反陽性は結核感染を示唆し、結核に感染しているという診断を支持するものである。ツ反陰性は一般的に常に結核を除外するものではない。しかし、免疫抑制状態や重症結核のような状態ではツ反は偽陰性となる。

2. 妊娠女性に対するツ反
 ツ反は妊娠中でも安全であり信頼性がある。催奇形性は報告されていない。妊娠自体が結核感染危険性を増すというものではないが、結核感染あるいは発病の危険性の高い妊娠女性はツ反を施行すべきであろう。特に以下の状況にあるならば結核感染のスクリーニングのためツ反を行うべきであろう。
・ 結核発病を思わせる徴候
・ HIV感染
・ HIV検査を拒否し、HIV感染の危険性のある行動
・ 結核発病の危険性を増すようなHIV感染以外の医学的な状況(U―A[1]を参照)
・ 肺結核・喉頭結核患者との緊密な接触
・ 結核蔓延地域からの移民(付録A、p109参照)
 妊娠中でツ反陽性者の胸部XPを含むフォローアップのガイドラインはV-A、p21とV-B(4)、p23を参照。

B:ツ反の施行方法
ツ反のやり方にはPPDによる皮内注射法で行う。多刺法(Tine Test)は小児、幼児でも行わない。このやり方は正確性に劣るためである。
 以下Mantoux法によるツ反のやり方である。
・ 0.1ml(5ツベルクリン単位)を前腕内側表面(volar:底側)皮膚の一番上の層に注射する。26ゲージのディスポの短い注射器を針の表面を上に向けて使用する。これは皮膚を持ち上げてはっきりした直径6〜10mmの膨疹を作るためである。
・ インフェクション・コントロールに従って:注射に際しては正しい手洗いを行い手袋、sharpな容器を使用する。手洗いには水は不適当でスキン・クリニーング製品を使用する(抗菌タオルなど)
・ ツ反施行後は、施行部位をこすったり、掻いたり、バンドエイドを貼ったりしないよう患者を指導する。施行部位を洗って乾燥してもかまわない。
 麻疹ワクチン、おたふくかぜ、猩紅熱ワクチン(MMR)はツ反の疑陰性の原因となる。 
 そのためツ反はMMRワクチン接種の同じ日に行うか、または少なくとも6週後に行うべきである。

C:ツ反結果の測定法
 ツ反結果は訓練した健常者が行い、患者自身に測定させてはならない。以下の手順は反応を測定するために使われる。
・ ツ反施行後48から72時間後に測定を行う
・ 硬く膨隆した領域(硬結)のみを測定する。発赤領域を測定してはならない。発赤部位は必ずしも結核感染を示すものではない。
・ 硬結部位の測定は曲げやすい定規で一番幅の広い部位を測定し(縦または横)、硬結の長さをmmで表記する。陽性または陰性と簡単に記録しないこと。もし硬結がなければ"00mm"と記録する。
 もし患者が決められた測定時間に来ず、ツ反後1週間後に来た場合、何らかの硬結が施行部位にあればそれを調べる。陽性と判別できるほど十分大きければその結果を記録し、さらに再検査する必要はない。もし反応がない、あるいは陽性と判定できない小さな反応なら、再検査の必要がある。再検査は同じ週に行うべきである。

D:ツ反結果の判定
ツ反陽性が硬結の程度と結核に対する医学的、疫学的危険性をもとに陽性に分類される。

≧5mmの硬結は以下の状況ではBCGの有無に関わらず陽性とする
 ● HIV陽性患者
 ● HIV検査を拒否するHIV感染危険因子の行動歴を有する患者、薬物使用歴のあるHIV感染が不明な患者を含む
 ● 肺結核、喉頭結核患者と密接な接触歴のあるもの
 ● 明かな陳旧性、治癒した胸部XP所見のあるもの
≧10mmはBCG接種歴に関係なく、上記の5mmカットオフの基準に合わないものを陽性とする。
 ● HIV感染以外の結核に対する医学的危険因子を有するもの、すなわち糖尿病、塵肺、長期ステロイド使用者、免疫抑制剤使用者、頭部および頚部の悪性腫瘍、血液および網内系疾患(白血病、ホジキン病など)、末期の腎疾患、腸バイパス術患者、胃切除者、吸収不良症候群、低体重者(標準体重の10%以下またはそれ以上)
 ● HIV検査が陰性と分かっているドラッグ注射、薬物過常摂取(アルコール、クラックコカイン)者
 ● 結核蔓延地域から移住者
 ● 十分な医療を受けられない、低所得者地域の人びと
 ● 病院、矯正施設、ホームレスシェルター、ナーシングホーム、薬物中毒治療施設に入っている人および勤務者
 ● ヘルスケアー提供者
 ● 5才以下の子供
≧15mmはBCG接種歴に関係なく、上記の5mmまたは10mmカット・オフの基準に該当しないものは陽性と考える

ツ反陽性者は結核を除外するために胸部XPを含む医学的評価を受けなければならない。
最初の胸部XPが正常なら、結核の症状を起こしてこないならXP検査を繰り返す必要はない
ツ反陽性者はVB(p22)のガイドラインに沿って予防治療を行うかの評価を行う。ツ反10〜14mmに対するプロトコールは付録N(p154)に記載されている。

E:BCG接種者に対するツ反
 BCGワクチンは小児のある種の結核を防ぐと信じられて多くの国で行われている。しかし、成人の結核に対する有効性はいろいろで議論のあるところである。BCG接種が行われていても結核蔓延国から来たツ反陽性者は結核感染しており、結核発病の危険性がある。

BCG接種はツ反結果の解析を複雑化させる。特に1才以後にBCGを行った場合、ツ反の疑陽性作り出すからである。(特に5才以後にBCGを行った場合はツ反疑陽性の有意な原因となることはない)BCGによるツ反陽性と真の結核感染によるツ反陽性を区別する方法はない。BCG接種した人ではツベルクリンに対する感受性にはかなり変動があり、時間が経つにつれ弱まる傾向がある。

一般的にBCG接種歴はツ反をするかどうかに影響するものではない、ツ反結果の解釈はツ反陽性者(BCG接種が12ヶ月以内行われた例、および結核低発生国から来た人を除いて[付録A、p107参照])の扱いに関する臨床的な決定に影響しない。

12ヶ月以内にBCG接種を受けていない既BCG接種者ではそのツ反結果はU節-D、p14に記載されているガイドラインに沿って分類されなけれならない。
特に
BCG接種にかかわらず
●肺結核・喉頭結核患者との濃厚に接触している患者がツ反5mm以上ならツ反陽性と考える。ツ反陽性の接触者は予防投薬の対象となる。(V節-B、p22参照)
他の危険因子を持たない結核蔓延国(付録A、p109参照)から来た患者では10mm以上ならツ反陽性と考える。(BCGが12ヶ月以内に行われていても)
結核蔓延国(付録A、p109参照)からでない患者と他の危険因子を持たない患者は15mm以上ならツ反陽性と考える。

12ヶ月以内にBCG接種を行っていてかつ結核低蔓延国からの患者はツ反を行うべきではない。そのような患者が結核発病の危険(たとえば濃厚接触)があるなら胸部XP、活動性結核除外するための医学的検査を受けるべきである。

12ヶ月以内にBCG接種を行っていてかつ結核低蔓延国からの患者で最近診療所に来てツ反記録がある場合、硬結が15mm未満ならV-D、p14(5mm以上または10mm以上の区分のもとで)に表記される結核感染に対する医学的ならび疫学的危険因子を持たないならツ反陰性と考える。

F:アネルギーテストの役割
 アネルギーとは遅延型、皮内反応、細胞性免疫反応が無力になっていることである。アネルギーとなっている患者は結核感染していてもツ反は陰性となる。

カンジダ、ムンプス、破傷風のようなに対一般的な遅延型過敏抗原に対するテストはアネルギーであるかどうかを評価するために行われる。しかしアネルギーテストは標準化されておらず、その結果で予防投薬を保留してはならない。結局、アネルギーテストの結果より結核感染に対する全般的ななリスクのほうが予防投薬を決定するために重要である。

現在ではアネルギーテストはHIV感染者での結核感染の通常のスクリーニングとして米国では推奨されていない。またアネルギ−テストは接触の評価には役立たない。一般的に肺結核、喉頭結核患者に緊濃厚接触していてツ反陰性者やHIV感染者は彼らがアネルギーかどうかに関わらず予防投薬を受けなければならない。

接触歴が明らかでないツ反陰性者やHIV感染者は彼らの結核暴露と感染に対するリスクに従って予防投薬必要と評価しなければならない。

アネルギーの原因、アネルギー・パネルの管理法に関する情報は付録P、p158参照

G:2段階ツ反検査
1. 背景
 結核感染者の中にはツベルクリンに対する反応性が年が経るにつれ低下しているものがいる。すなわち、感染後、長い年月が経過した後にツ反を行うとツ反が陰性となることがある。しかし、次の年に再度ツ反を行うと陽性となることがある。この現象がブースター現象と呼ばれるものであり、最初のツ反が経年変化で低下した免疫反応を高めたため起こるものである。ブースターは55才以上の人やBCG接種者にもっとも一般的に見られる。

2回目のツ反のために促進された反応は最近のツ反陽性化と間違えるかもしれず、ブースター現象はツ反結果の解釈を複雑にしてしまう。このように何年も前の感染を最近の感染と解釈されてしまう可能性がある。混乱の原因となるブースター反応を除外するためにツ反を繰り返した人は2段階試験を行ったと見るべきである。

最初のツ反が行われその結果が陰性の場合、2回目のテストは1〜3週間後に行わなければならない。2回目のツ反結果は基準値として使用される。もしそれが陽性なら患者は感染、陰性なら未感染と考えられる。

2. 2段階検査対象者
 2段階試験は過去1年以内にツ反陰性を証明できない人、ヘルスケアワーカーやcongregate setting(集団環境)の居住者または雇用者のような繰り返しツ反が行われると思われる人たちに行われる。
ツ反手技については下記に示す通りである。

● 最初のツ反が陰性なら1〜3週間後に同量で同力価のツベルクリンを使ってツ反を行う。反対側前腕または同じ側なら少なくとも5cmはなして注射する。

●2回目のツ反が陰性なら(U節-D、P14参照)未感染に分類する。(TB Class 0またはTB Class T)
●2回目のツ反が陽性なら(U節-D、P14参照)胸部XPを撮影する。もし胸部XPが異常ならClassXと判定し、結核発病(W節、p35参照)または他の肺疾患と判定する。もし胸部XPが正常ならClassUと判定し予防投薬の適応と判定する。(V節−A、p21;V節−B,p22参照)
●最初のツ反が陽性なら胸部XPを撮影する。胸部XPが異常ならClassXと判定し、結核発病(W節、p35参照)または他の肺疾患と判定する。もし胸部XPが正常ならClassUと判定し予防投薬の適応と判定する。(V節−A、p21;V節−B,p22参照)2回目のツ反は必要ない。

1年以内に行われたツ反陰性履歴を持つ人はそれを最初のツ反結果とし、その結果を前値として判定を行う。はじめのツ反を2段階法の最初と考えて2回目のツ反は必要ない。

参考文献
1. Centers for Disease Control and Prevention. Anergy skin testing and preventive therapy for HIV-infected persons: revised recommendations. NMWR 1997; 46(RR-15)
    Class 0:No exposure
    Class 1:Exposed,but not infected
    Class 2:Exposed,and infected
    Class 3:TB patient
    Class 4:Old and healed TB
    Class 5:TB suspect

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