結核菌検査における偽陽性 結核予防会結核研究所対策支援部医学科 伊藤邦彦 結核予防会ホームページよりの要約 |
1.偽陽性について 生物学的検査は非常に微妙な検査であることも多く,偽陽性や偽陰性が何がしかの割合で生じるのは検査の性質上仕方が無い側面もあります。 医療ミスというよりは検査に伴って生じる不可避の誤差のようなものとして考える。臨床に即して言うと,常に偽陽性であることの可能性を考慮しつつ他の臨床での所見と考え合わせた上で,検査結果の解釈をせねばならない 2.塗抹検査の偽陽性 1,紛らわしい異物の混入(一番多い) 本当に抗酸菌なのかただのゴミなのかを見分けるのはなかなか難しい 塗抹検査は抗酸菌を検出する検査であって結核菌だけを特異的に検出する検査ではない 2,弱い抗酸性を有する抗酸菌以外の細菌の存在, 抗酸菌は基本的に環境中の雑菌、病原性の無い雑菌性の抗酸菌が顕微鏡で見えて「塗抹陽性」となることもある。 3,検査技師さんの単純な見間違い。 4,検体の取り違え, 5,検査試薬の抗酸菌による汚染。突然塗抹陽性検体が頻出するよう時は注意 顕微鏡で見えたものが本当に抗酸菌であったかどうかは培養検査で確認するしかない 培養のやり方次第では本当に抗酸菌が見えていたのに培養検査で証明できないということもあり得る。 塗抹検査の「偽陽性」があくまでも「偽陽性の疑い」に留まる。 3.培養検査の偽陽性 1,検体の取り違え, 2,検査技師さんが実は肺結核で検体内に自ら咳などによって結核菌を撒いてしまう, 塗抹検査の場合と同じく培養陽性検体が多発することによって発見される 3,試薬の抗酸菌による汚染, 塗抹検査の場合と同じく培養陽性検体が多発することによって発見される 4,抗酸菌陽性の検体からの他検体へのクロスコンタミネーション 菌陽性の全結核患者のうち約1%がこのクロスコンタミネーションによるものではないかという海外の報告もある 結核菌での培養検査のクロスコンタミネーションは,結核菌を含んでいる検体から結核菌が検査室内で他の検体に混入する。検体から検体へと結核菌が混入するルートについては分からないが,試薬瓶の注入口を介したルートや,結核菌を大量に含んだ検体の処理時に結核菌が空気中にエアーゾールとなって飛び散り,それが他の検体に落下するといったルートが考えられる。 培養検査のクロスコンタミネーションを証明する方法:RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)でDNAパターンを調べる方法 検体から検体へと結核菌が混入する場合には,その両者の検体から培養される結核菌は遺伝子的に同一である。 @その検体を検査する以前に処理された,大量に結核菌を含む検体がなかったか? Aそうした検体が見つかれば,今度はその検体の処理後に結核菌培養陽性の検体が多発していないか? Bこれらの検体から培養された結核菌に対してRFLP検査を行い,DNAパターンが一致するか? 一致すればクロスコンタミネーションの可能性があり。 C陽性患者をCTなどで詳しく調べて臨床的に活動性の結核である可能性を否定 D患者相互間で個人的なつながりがないことを確認 クロスコンタミネーションと判断できる。 結核の診断が菌検査中心になってきて,培養検査で抗酸菌が見つかり同定検査で結核菌と確認されると,結核の確定診断ということになる。しかし臨床的に結核の診断に疑問のある場合には,クロスコンタミネーションなどの偽陽性の可能性を考えて,総合的に判断していく必要がある。 |
文献 病院検査室における結核菌培養のクロスコンタミネーション,伊藤邦彦 高橋光良他:結核.Vol.74,No.11:777-788,1 |
http://www.jata.or.jp/rit/rj/0110kinkensa.htm |