結核診査協議会の実際的な運用に関する提言
亀田 和彦
結核 vol.78 No.2 65-68,2003
・・・略

診査会運用の実際
T.34条,35条の申請そのものについて
1.34条,35条共通で不合格とするもの
 @塗抹陰性で,かつ胸部]線上治療が必要と思われる所見のないもの。
 A前回の申請時3カ月のみ許可,または今回限りと通知していたにもかかわらず再申請され,胸部]線上および菌所見で新たな変化が認められず,さらに主治医から治療延長の必要性についての記載のないもの。

2.34条申請について
(a)不合格とするもの
 菌陰性で標準治療が完了している例に対し引き続きINH単独療法の申請がなされたもの。
(b)3カ月の期限付きで合格とするもの
 @再治療で塗抹陰性かつ胸部]線上硬化巣のみの症例には,培養結果が判明するまでの3カ月許可する(但し過去の胸X線と比較して不合格とすることもある)。
 A非結核性疾患も疑われるが既に結核として治療が始められている場合は3カ月許可する(但しその後非結核性疾患であったと判明した場合は転症届を出すよう指示しておく)。

3.35条申請について
(a)不合格とするもの(但し34条で合格)
 @塗抹陰性のもの
 A菌陰性化後の経過中にPCR法のみ陽性となったもの。
(b)3カ月の期限付きで合格とするもの
 @塗抹陰性であるが,胸部]線所見から培養では陽性となる可能性が高いと考えられる場合(空洞があるもの,なくても滲出性病変が肺の一区域を越えているものなど)は3カ月許可とし,培養陰性が判明すればその時点から34条とする。
 A初回申請(再治療の初回申請も含む)でPCRなど核酸増幅法のみ陽性のもの。
 B喀痰ではなく気管支洗浄液などからのみで塗抹陽性のもの。
〔附〕
 治療開始時塗抹陰性培養中の段階で34条で治療が開始された例で2カ月後に最初の培養結果が陽性と判明したとの理由で35条に切り替え申請が出されることがある。その場合,
@治療開始時にさかのぼって35条を認める。
A培養陽性が判明した時点から35条を認める。
B治療により既に排菌も止まり感染性もなくなっていると考えられるのでそのまま34条を継続し35条を認めない,
の3通りの対応があるが,治療が有効に作用している場合は34条継続でよいのではなかろうか。
感染性か否かは治療開始時に判断されるべきであり,かつ上述の3−b−@で多くは解決できるはずであり有効化学療法は2カ月もたてば感染源の隔離の役割は十分果たしているからである。

V.申請内容(処方)について
 下記に示す申請については「好ましくない処方」と考えられるので医療機関の了解を得て不合格とする。
 @標準治療完了後のINH単独使用(主治医が治療の継続が必要と考える場合はRFPとの併用を指導する)。
 A3カ月以上にわたるPZAの使用(但し再治療で他の薬剤に耐性のある場合は3カ月以上の使用もやむを得ない
 B80歳以上の高齢者に対するSM,PZAの使用(但し、薬剤内服困難な場合はSMM0.5gの使用はやむを得ない)。
 C多剤耐性持続排菌例に対する無効薬剤の使用(1NH単独使用を指導する)。
 D耐性ありと記載されているにもかかわらず当該薬剤が申請されている場合。
 E肺結核に対する単剤使用申請(他の薬剤が副作用のため使用困難な場合はやむを得ない)。
 F不必要と思われる5剤申請
 Gその他,理解に苦しむような申請内容には主治医に問い合わせる。
〔附〕
 塗抹陰性の場合,現行の医療基準ではINH,RFPの2剤併用でも可とされているが近年INHの未治療耐性の頻度が高くなっていることから医療基準の見直しが検討されていることを考慮し菌陰性でも他に1剤を加えた3剤併用を指導したい。

V.初感染結核に対する予防内服(マル初)の34条申請について
 マル初の適応は原則として旧厚生省の示す基準に従うのは勿論であるが,定期健診の場合と定期外健診の場合とは解釈も異なる。
乳幼児,未就学児では型通り基準に当てはめるだけでなく,感染源との接触の度合い,BCG歴,今回のツ反の大きさなどを考慮して決定する。

ツ反が陰性あるいは弱陽性であっても感染源と密接な接触があればマル初を認め,2カ月後再ツ反を行い内服継続の安否を決定する。なお感染源がINHに耐性がある場合はINHをRFPに替える。

INH,RFP両剤耐性例の場合は慎重な観察を続け,万一発病した場合は結核専門医に治療を委ねる方針を指示しておくのがよい。
INH,RFP以外には予防的効果が確認されている薬剤はない。

 高校生以上29歳までの者は原則として集団感染で感染が疑われた者を対象とするが,それ以外でも感染源と思われる患者が塗抹で大量の菌(ガフキー3号以上)を排菌しており咳を続けかつ密接接触があり感染が強く疑われる場合は予防内服の対象とすべきであろう。

W.病型(学会分類)について
 診査会で判定されている病型の詳しい取り決めと申し合わせは,日本結核病学会の肺結核]線分類(学会分類)の説明書と図を参照するとして,診査会においては次の点を統一したい。

@特殊型のH型は,肺野に病変がなく肺門リンパ節の腫脹のみのものとされているが気管側リンパ節(縦隔リンパ節)のみの例もH型とする。
A胸水貯溜のPl型が良好な経過をたどり癒着,軽度の肥厚のみを残した例はX型とする。膿胸となった場合はplemとする。
B胸部正面X線写真では確認できる所見がなくてもCTで浸潤巣がみられる場合,あるいは正面X線写真では浸潤影のみでもCTで空洞が明らかに認められる場合は病型は前者はO型(CTV型),後者はV型(CTV型)とCT像を括弧内に追記する。
C治療中はV型,治療終了すればW型としていることが多いと思われるが,治療中・後にかかわらず不安定な陰影(病巣周辺のボケ像)があればV型,安定していればW型とする。6カ月も治療すれば多くはW型となっているはずである。逆にW型,X型,0型であっても菌陽性で要治療となる例もある。病型分類と医療区分とは別である。

V.治療終了の時期への助言
1.初回治療例
 @原則として経過良好でありながら,標準治療期間を超えた申請は不合格とし,その後に再排菌があればその時点で再申請を出すように指導する。但し,
  a.明らかに不規則治療に陥っていたことがわかっている例(副作用のためのものも含む)
  b.INH,RFPのいずれかに耐性のあった例
  c.糖尿病,腎透析中などの合併症のある例,他疾患のためステロイド剤使用中の例
  d.経過中に悪化(再排菌,]線上の新陰影出現など)のあった例
はこの限りではない。

 A主治医が今回で治療終了予定と記載している場合は記載どおり終了するように勧める。
 H2回目の申請時において(35条から34条への切り替え申請の場合も)今回の申請切れの時点で標準治療期間を満たし,経過良好であれば今回で治療終了するように指導しておく。
 C排菌もなく既に]線所見も安定している例には今回限りで終了するように指示する。
 いずれも標準治療期間を超えることなく治療を終了し,再排菌があれば再申請することを徹底させたい。

2.再治療例
 @すべての薬剤に感受性のある例は初回治療と同様の考え方でよい。
 AINH,RFPいずれかに耐性があった例は菌陰性化後1年間治療する。
 HINH,RFP両剤に耐性があった例では菌陰性化後18〜24カ月治療する。
 CINH,RFP以外の多剤にも耐性があり持続排菌であった場合は,陰性化した例では陰性化後24カ月治療する。陰性化しない例は外科療法の検討を指示する。外科療法不可能な例にはINH単独療法もやむを得ない。

3.非定型抗酸菌陽性例
 @M. kansasii:
  INH,RFP,EBが有効で菌陰性化後12〜18カ月で終了してよい。本症にはPZAは無効とされている。
 AMAC症:
  RFP,EB,KMが比較的有効であり,抗結核薬ではないが,CAMが有効とされ併用されることが多い。菌陰性化に成功すれば経験的に陰性化後12〜24カ月治療を行うのが一般的である。
本症に対しては肺結核と異なり決定的な処方はないが非定型抗酸菌症の治療に関する見解が示されており,そのガイドラインに示されている処方が他の処方より優れているとの報告がある。
〔附〕
 非定型抗酸菌症は病類区分は「肺結核」活動性分類は「非定型抗酸菌陽性例」とし,統計上は「別掲」とする。

医療費公費負担は34条は適用されるが35条は対象にならない。34条申請書には第一病名は肺結核,第二病名に非定型抗酸菌陽性例とすることと決められている。このように決められた背景は,
@肺結核と非定型抗酸菌症両者の正確な統計を得るため,
A非定型抗酸菌症とすると健康保険で公式に使用できる薬剤がなく患者の経済的負担を救済する
ための2つの理由による。

診査会における本症の扱いについては告示,疑義解釈の形での公式指示は出されていないが,申請が出た場合に予防法の対象外として却下する場合,あるいはMAC例には治療を行っても効果は期待できないとの理由で不合格にしている場合があると聞くが,われわれは上述の2点を考慮して診査すべきであると考える。ただし1回のみの微量排菌例で画像所見や自覚症状のない例には治療の必要はなく,観察のみで可と伝えるべきであろう。

4.肺外結核
 肺外結核の治療終了の時期についての助言は困難である。
頚部リンパ節結核,骨,関節結核,泌尿器結核いずれも局所を観察し診断しているのは主治医であり診査会は主治医の判断に任せる他にやることはない。

原則として肺結核に準じて意見を伝えるが確信は持てない。1年以上の長期治療申請例には診査会から主治医に対して治療終了の時期の目安を問い合わせるのも1つの方法である。

腸結核には著効あるSMを,髄膜炎には髄液移行性良好なPZAを含んだ処方を指導したい。

・・・以下略