ツベルクリン反応検査
結核診療の実際(U) ドクターサロン48(2)7.2004
 国立病院機構東広島医療センター呼吸器科部長
      重 藤 えり子
     (聞き手 斉藤郁夫)
 斉藤 まず、ツベルクリン反応についてどんなものかということからお話しください。
 重藤 ツベルクリンといいますのは、結核菌を培養した培養液の濾過したものを精製したもので、もともとはつくったコツホという方は治療に使おうとされたんですけれども、そうしますと熱が出るとか、非常に強い反応が出るので、それを診断に使うようにできないかということでできたのがツベルクリン反応です。
 斉藤 いま日本ではどのように使われているんでしょうか。
 重藤 結核の診断ということで、従来はBCGを広くしておりましたけれども、その接種対象を選ぶという意味でかなり使われていたわけです。それともう一つは、結核の方と接触した人、そういう方が感染したかどうかを知るための検査、結核の感染の診断ということで使われています。
 斉藤 さてその反応ですけれども、反応を変化させる要因はどういったものがあるんでしょうか。
 重藤 もちろん、結核菌に感染しているということが一番反応を強く起こさせる原因になるんですけれども、結核菌とよく似た共通の抗原を持つような菌に感染した場合、非結核性抗酸菌というものが最近かなりよく見られますけれども、そういうものでも反応が出るようになります(表1)。
 表1 ツベルクリン反応に影響を与える因子
技術的因子
生体側の因子
・ツベルクリン液
・注射液の保存
・注射技術
・計測技術
・結核(非結核性抗酸菌)感染
・BCG接種
・感染後(BCG接種後)の減弱と回復
・免疫に影響を与える疾患、状態(アネルギー)

 それから、一番日本において影響が強いのはBCG接種で、BCG接種をした後は原則いわゆる陽性ということになります。
 斉藤 ツベルクリン反応は何度か繰り返していく場合があると思いますが、繰り返すことによっての変化もありうるわけですね。
 重藤 一度感染を受けますとツベルクリン反応が陽性になります。その後、しばらく時間をおきますと、だんだんまた弱くなっていくという現象があるんですけれども、この時点でツベルクリン検査をしますと反応は弱いけれども、その後すぐに免疫力が戻ってきて、感染直後ですとかBCG接種直後のように強い反応に戻ることがあります。
そういうふうに、ツベルクリン反応は2回連続で検査をしますと強くなるという反応もあります(図1)。

 斉藤 どのぐらい反応が強くなるんですか。
 重藤 これは医療従事者でやった検査結果ということに限ってなんですけれども、発赤径でいいますと平均で7〜8mm、硬結径でいいますと2〜3mm大きくなります。ただし、その大きさにはかなり幅がありまして、人によりますと20mm、30mmと大きくなられる方もあります。
 斉藤 判定の部分で発赤と硬結というお話が出てまいりましたけれども、いま日本での判定ではどちらを使うんでしょうか。
 重藤 日本では発赤径を主に使っております。ただ、世界におきましては硬結径のほうを採用しておりますので、外国のほうに診断書を書くような場合には硬結径を書くべきだと思います。
 斉藤 判定の記載の場合に、発赤と硬結は分けて書くということですね。
 重藤 一応記載の規則としては、分数にしまして、分母のほうに発赤径、分子のほうに硬結径を書くことになっております。
 斉藤 面積で出てきますけれども、長径と短径ということになるんですか。
 重藤 一応規則上は長径だけでいいと。
 斉藤 長いほうを書くということですか。
 重藤 そうです。
 斉藤 そういうことで反応させるわけですけれども、具体的に手技としては、これは何か注意点はありますか。
 重藤 液を保存して、溶解して注射器に吸って、きちっと皮内反応をする、そういう手順全部が反応の大きさに影
響しますので、やはり添付文書を確認していただいて、そのとおりにきちっとしていただくべきだと思います。特に、注射の深さ、それから入れる量もきちっと見ていただきたいと思います。
 斉藤 そうしますと、医師のツベルクリン反応に対する技術がばらつくんでしょうか。
 重藤 そうですね。実際問題、かなりばらつきはあると思います。
 斉藤 それから判定ばらつきはどうですか。
 重藤 判定のほうも非常にばらつきがあると思います。
 斉藤 でしょうね。そうしますと、理想的には1人が同じ基準でやっていくということなんでしょうか。
 重藤 はい。例えば、集団の反応についてのデータから何か判断しなきゃいけないような場合には、その集団全部をきちっと訓練された人が見る、注射をする、計測をするということが本来は望ましいわけです。
 斉藤 反応は一応48時間後ということですね。それはかなり厳格に守らないといけないでしょうか。
 重藤 いえ、大体反応が一番強いピークが48〜72時間後ということになっておりますので、その間であれば、個別の判断でしたらいいということです。
 斉藤 その時間に来ることができないので、少し延ばしても可能ということですね。
 重藤 そうです。
 斉藤 自分で見なさいということはよくないということですか。
 重藤 実際問題は、測り方をよく教えまして、発赤径が大体わかればいいという状況であれば、見ていただくこともありますけれども、やはり正確には訓練された者がきちっと計測するべきだと思います。
 斉藤 基本になりますけれども、ツ反をやらない人、やってはいけない人がありますか。
 重藤 やってはいけない人というより、まずやるべき人にだけするということが前提です。やるべきだろうと思われる人の中で検査を避けたほうがいい、もしくは延期したほうがいい方としては、現在熱があるとか、ほかの重症の病気がある。これは計測した後の判断が非常に困難になりますので、初めからしない。それから、健康な皮膚が見つからない人。それから、いままでに非常に強い反応を呈したことのある人。これはもう一度すれば、また強い反応ですから、これはご本人が苦痛になりますので、原則避けます
 斉藤 そういった人たちを避けてやっていくわけですけれども、一般に使われるツベルクリン反応の液としてはいまはどういうものがあるんですか。
 重藤 いま一般に使われるのは、一般診断用ツベルクリンということになります。これは0.1ml中に0.05μgということできちっと決まっております。
従来は強反応者用ですとか確認用とかいろいろな種類がありましたけれども、現在、強反応者用というのは必要ありませんし、確認用もあまり意義がありませんので、今後は一般診断用だけということで使っていくようになると思います。
 斉藤 さて、このツベルクリン反応検査をやって判断していくということになると思います。対象として何種類かあると思うんですけれども、日本では乳幼児ではまだやっているわけですね。
重藤 乳幼児におけるBCG接種前にしますツベルクリンというのは、今後はしないという方向になっております。これは世界ではすべてそうですが、日本だけで続けていました。乳幼児の場合でもツベルクリンというのは2〜3%では発赤径10mm以上の陽性になります。ただ、その中に本当の感染者というのはめったにいない状況になっていますので、もうしなくていいということになります(図2)。

 図2 未感染者と結核患者におけるツベルクリン反応径の分布

 
 斉藤 そこを飛ばしてBCGをやってしまう。あとは、接触者検診はどうなんでしょうか。
 重藤 接触者検診の場合には、感染をしているか、していないかということを知るための手段というのが、現在のところ検査としてはツベルクリン反応しかありませんので、ツベルクリン反応をして、ある程度の大きさ以上であれば感染している可能性が高いというふうに判断するようにしています。
 斉藤 そうしますと、そこの数値としては何か具体的にありますか。
 重藤 これはBCGを受けていない方でしたら従来の10mmを境目にして陽性、陰性。陽性であれば感染を受けているであろうというふうに判断できるんですけれども、BCGを受けたことがある方の場合には、接触して感染している可能性が十分あるような状況下であった人であれば、30mm以上なら感染している可能性が高いであろうと。ただし、これは原則29歳未満の方です。
 斉藤 さて、ツベルクリン反応の将釆ですけれども、これはどうなんでしょうか。
 重藤 ツベルクリン反応といいますのは、いままで申しましたように、BCG接種によって非常に強い影響を受けますので、そのために判断が非常に難しい。どうしても過剰な判断ですとか過小な判断が入ってきますので、そういうものを除外しなければいけないわけです。そういうものが解決できるような新しい検査法ができておりまして、まだ現場でなかなか普通には使えませんけれども、将来としてはそういうものが有用になってくると思います。
 斉藤 どうもありがとうございました。