抗結核薬に40年ぶりに新薬
マウスで臓器の完全除菌期間を半減
Medical tribune 2005.2.17
〔ニューヨーク〕
 Johnson&Johnson PharmaceuticalResearch and Development(ベルギー)のKoenAndries博士らは,ジアリルキノリン(DARQ)系の新しい抗菌薬R207910が,現行の抗結核薬よりも短期間で結核菌を除去できることをマウスによる実験で確認し,Sience(2005;307:223−227)に発表した。同薬は多剤耐性(MD−R)結核菌株にも有効であるという。

第T相臨床試験で安全性確認
 Andries博士は「R207910がMycobacterium tuberculosisの薬剤感受性株と薬剤耐性株をinvitroで抑制できることを確認した。同薬の殺菌活性は,マウスの実験ではイソニアジド(INH)やリファンピシン(RFP)を1 log以上,上回っていた」と述べている。

 また,同博士らは,81例を登録したプラセボ対照ランダム化第T相臨床試験の結果,同薬の安全性に問題はなかったと同誌で報告。「マウスで有効性が確認された同薬の血清濃度は,健常なヒトの耐容範囲であった」と述べている。実際,マウスで有効活性が確認された血清濃度は,臨床試験の登録ボうンティアの場合の7倍を超えていたが,少なくとも試験期間内には重度な有害事象は認められなかった。

 同博士は「世界保健機関(WHO)が結核治療の第一選択薬に挙げている薬剤であるRFP,INH,ピラジナミド(PZA)をR207910に替えることで殺菌効果が促進され,抗菌薬の組み合わせ方によっては2か月の治療で完全な培養陰性化が得られる。また,単回投与でマイコバクテリアの増殖を1週間抑制できる」と述べている。

 感染症のなかで,結核は世界中でエイズに次ぐ、死亡者を出している。抗結核薬開発世界同盟 (TBA)による と,結核菌はHIVと同時感染しやすく,世界中で1,100万人以上の成人が同時感染している。

  R207910をRFP以外の他の治療薬と組み合わせることで特に有効性が増すようだ。RFPを除く組み合わせは抗HIV薬としても用いることができ,HIV・結核菌同時感染者の治療に適しているという。

結棲菌のATP合成能を阻害
 R207910は,他の結核治療薬とは異なる作用機序に基づいている。他の抗菌薬は細菌の細胞壁合成,蛋白質合成,葉酸生合成,もしくは核酸複製を阻害するが,同薬は細胞がATP合成によりエネルギーを産生する機序を阻害すると考えられている。

 Andries博士は「エネルギー補給を阻害することで細菌に対する有効性を発揮する抗菌薬は,われわれの知る限り初めてで,この点において非常に特殊である。その機序は細菌へのエネルギー供給を絶ち,いわば明かりを消してしまうことができる」と述べている。

 同薬は,細胞培養研究で薬剤耐性M. tuberculosisをマイコバクテリアに対する有効性が確認されたが,他の細菌を標的としないため腸内細菌叢を乱さないだろうと見られる。抗菌スペクトルは,Mycobacterium avium(MAC)やM. kansasiiなどヒトにおいて重要な非定型株、さらにM.fortuitumやM.Abscessusなどの急増殖型の細菌を含むマイコバクテリアに選択的であるという特徴を持っている。

 マウスにR207910を含む薬剤を1ケ月併用投与したところ,従来の薬剤併用による2か月の治療に匹敵する肺のの細菌負荷減少効果があった。さらに2ケ月の継続投与でマウスの肺は完全に除菌され,結核桿菌は検出されなかった。したがって,この新薬の併用治療は治療期間を約50%短縮できると考えられる。

 今回の実験では,この新薬が迅速に血中に到達し,肺の細胞内に凝集することも確認された。また,週1回投与でもマウスの体内に数日間滞留して殺菌効果を維持できた。

 同博士は「1回の投与で効果が持続するのは,
@血中半減期が長い
A特に結核の標的月蔵器において組織浸透性が高い
B組織内半減期が長い
−などの特徴があるためと思われる。これらはすべて,慢性感染症の治療において重要な属性で,より容易な治療計画の開発にも役立つと言える」と述べている。また「現行の薬剤では,副作用や服用の不便さから,完全に除菌できる前に服薬を中止する患者が多く,投薬期間の短縮はより効率のよい治療につながる」と説明している。

◎コンプライアンスの改善図れる
 WHOは現行の結核長期治療計画における服薬遵守率を改善するため,医療従事者が患者の服薬を直接見届けるよう推奨している。この慣行は,直接監視下短期化学療法(DOTS)と呼ばれている。ただし,Andries博士によると,このシステムは非常に効果的だが,医療制度に過度の負担をかけるものだという。そこで,より短期の結核治療計画が開発されれば,結核音台療と服薬コンプライアンスを根本から改善し,DOTSの普及を促進して回復患者を増やすことができる。

 同博士は「地域によってはコンプライアンスが大きな問題となっている。症状が消失してからも,薬剤の服用をさらに敷か月間続ける必要性を患者に説明するのは困難である」と付け加えている。

◎「有望な新薬」と評価
 Scienceeの付随ニュース記事(2004;306:1872)で,JonCohen氏は,ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)の結核研究者Jahn Grosset博士の「非常に有望な新薬である」とのコメントと,聖ジョージ病院(ロンドン)のDenis Mitchison博士の「率直に言って,今回の一連の知見は驚嘆に値する。4か月かかっていた臓器の完全除菌を2か月で行う組み合わせが出現した。これまで達成できなかったことだ」とのコメントを引用している。米国科学促進協会(AAAS)によると,結核治療の新薬が臨床適用されたのは40年ぶりだという。

 同誌のニュース記事は,その他の薬剤も現在,抗結核薬開発パイプライン上にあることを伝えている。
R207910以外では,Bayer社のモキシフロキサシンとEC委員会/WHOのガチフロキサシンの2剤に関して早期臨床試験が行われている。いずれも他の疾患に対して既に承認ずみの薬剤である。

 さらに,
 Chiron社/TBアライアンスのニトロイミダゾールPA−824
 Lupin社のピロールLL−3858
 Procter&Gamble社の非フツ化キノロン系薬
 Sequella社のエタンブトール・アナログ
−の4剤に関して前臨床試験が行われている。
 同記事によると,結核患者のほとんどは貧困層であるため,新薬開発は利益面での刺激に欠けるという、。