結核診療ガイドライン改訂第3版 2015年3月
山岸文雄 国立病院機構草葉兼病院名誉院長
 ○結核の現状
 2013年の推定では
・世界の人口の約3分の1が結核菌に感染、
・そのうち毎年900万人が結核を発病
・150万人が死亡
・発生患者の98%が発展途上国やlH社会主義諸国
 ・地域的にはアジアが56%、アフリカが29%
WHOを中心に結核対策が進められた結果、2002年から罹患率が低下に転じた。
・罹患率は人口10万対126といまだ高く、アフリカ、アジアの一部を中心にHIVとの二重感染結核の問題など、厳しい課題も多い。
 2013年のわが国の結核催患率は人口10万対16.1と、多くの欧米先進国の4倍以上で、米国の1970年代初頭の水準である。
 日本における最近の特徴
①発生患者のうち71%が60歳以上と著しい高齢化
➁医学的リスク集団への結核悪者の集中
③健康診断の機会に恵まれない人々の高い罹患率と、大都市への集中
④重症患者の増加
⑤薬剤耐性結核の増加
⑥非定型例の増加
⑦集団感染の多発と質の変化
 BCG接種は1歳までの乳児期(標準は生後5~7カ月)に限定され、ツベルクリン反応検査なしの直接接種で行われる。BCG接種の発病予防効果は70~80%で(発病率が4分の1~5分の1に低下)、これが10~15年持続する。

○結核の診断
 結核の感染は飛沫核感染(空気感染)であり、吸い込まれた飛沫核は、胸膜直下の肺胞に定着し、肺胞内の肺胞マクロファージに異物として貪食される。貪食された結核菌はマクロファージ内で増殖して感染が成立し、初感染原発巣となる。肺門リンパ節病巣とあわせて初期変化群を形成し、細胞性免疫の完成により治癒するが、一部は初感染に引き続き発病する(一次結核症)。これに対し、細胞性免疫により発病が阻止されても、一部の菌は増殖することなく生存し続け、ある時点で再び増殖を開始する(二次結結核)。
 注)しかし、今後は高齢になって初感染、発病というパターンもあり得る。
新登録肺結躇患者の約80%は、症状を訴えて医療機関を受診して発見される。発見時の臨床症状は、全くの無症状から重度の呼吸不全まで様々である。金身症状としては、発熱、盗汗、全身倦怠感、体重減少など、呼吸器症状としては、咳欺、喀痰、血痰・喀血、胸痛、呼吸困難などである。
 結核は病理学的に滲出性病変、繁殖性病変、増殖性病変、硬化性病変など多様な病変があり、病巣は多彩で複雑である。画像診断の基本は胸部単純Ⅹ線写真であるが、CTが必要なことも多い。肺結核の確定診断は結核菌の証明であり、喀痰検査は重要である。痰の喀出が困難な場合には、3%の高張食塩水の吸入による誘発喀痰で採取することも有用である。また必要に応じて胃液検査を行うこともある。
 
○結核菌検査
 喀痰の抗酸菌検査では1日1回、連続して3日間検査することが推奨されている。抗酸菌検査では通常、塗抹検査と培養検査の2項目をオーダーするが、結核の疑いが強い場合には、健康保険診療上、結核菌核酸増幅法検査を1回行うことができる。、
 塗沫検査には、従来からの光学顕微鏡で鏡検するチール・ネルゼン法と、蛍光顕微鏡で鏡検する蛍光法がある。
スクリーニングは蛍光法で行い、菌数が少ない場合にはチール・ネルゼン法での確認が勧められている。
 抗酸菌の培養検査は多くの日数を必要とし、固形培地である小川培地では陰性を確認するまでに8週間、液体培地と自動検出機を用いるMGIT等法でも6週間を要する。MGIT法は迅速性、検出感度とも優れている
 同定検査法として、直接検体から菌の遺伝子を検出する強酸増幅法検査では、DNAを増幅するPCR法、RNAを増幅するMTD法がある。
・MTD法は結核菌群のみの検出で、PCR法は結核菌群以外のMycobacterium aviumとM. Intracelluraleも検出可能
・培養陽性菌に対する同定法では、アキュプローブ法は結核菌群とM. aviumのみ
・DDHマイコバクテリア法は結核菌群を含め検出可能な抗酸菌は18種類
 薬剤感受性検査は薬剤の効果を知るうえで重要な検査である培養陽性となれば必ず行う。結核菌集団中に含まれる耐性菌の比率を調べる比率法で行われ、一定の薬剤濃度に対し1%以上の耐性がある場合、臨床的に耐性と推定される。この方法は非結核性抗酸菌では使用できない
 なお直接検体によるものを除く同定検査、薬剤感受性検査は、培養陽性であることを必ず確認してから行う。
○結核患者の管理
 結核は感染症法による「二類感染症」であり、医師は患者が纏核であると診断した時は、直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない
 
 表1 入院に関する基準 厚生労働省健康局結核感染症課長通知(健感発0907001号)の要約
1.肺結核、咽頭結核、喉頭結核または気管・気管支結核の患者で、喀痰塗抹検査の結果
  が陽性の時。
2.1の喀疲塗抹横聾の結果宰陰性であ巻教場倉に、喀疫、胃液または気管支鏡検体を用
  いた塗抹検査、培養培養検査または核酸増幅法のいずれかの結果が陽性であり、以下のア、
  イまたウに該当するとき。
   ア 感染防止のために入院が必要と判断される呼吸器等の症状がある。
   イ 外来治療中に排菌量の増加が見られている。
   ウ 不規則治療や治療中断により再発している。
 退院させることができる基準、①~③すべてを満たす
①2週間以上の標準化学療法が実施 され、咳、発熱などの症状が消失。
②2週間以上の標準化学療法が実施 され、異なる日に採取された喀痰の 塗沫培養の結果が連続3回 陰性(3回の検査は原則として塗抹 検査で行い、(①の臨床症状消失後は、速やかに連日検査を実施する)。
③思考が「治療の継続および感染拡大 防止の重要性」を理解し、退院後の 治療継続および他者への感染防止が可能と判断。 
退院させなければならない基準
・咳、発熱などの症状が消失
・異なる日に採取された喀痰培養検査の結果が連続3回陰性 
○結核の治療 
肺結核初回標準治療法 
A法:ビラジナミド(PZA)を使用できる場合
 イソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)+PZA+ストレプトマイシン(SM)またはエタンブトール(EB)を加えた4剤併用療法を2カ月間行い
 その後INH+RFPの2剤併用療法を4剤併用療法開始時から6カ月を経過するまで行う。
B法:PZAを使用できない場合
 INH+RFP+SMまたはEBを加えた3剤併用療法を2ヶ月間行い、
 その後INH+RFPの2剤併用療法を3剤併用療法開始時から9ヶ月を経過するまで行う 
  
 表1 入院に関する基準 厚生労働省健康局結核感染症課長通知(健感発0907001号)の要約
1.肺結核、咽頭結核、喉頭結核または気管・気管支結核の患者で、喧痍塗抹検査の結果
  が陽性の時。
2.1の喀疲塗抹横聾の結果宰陰性であ巻教場倉に、喀疫、胃液または気管支鏡検体を用
  いた塗抹検査、培養横墾蒙鮭は核酸増梅漬のいずれかの結果が陽性であり、以下のア、
  イまたはつに該当するとき。
   ア 感染防止のために入院が必要と判断される呼吸器等の症状がある。
   イ 外来治療中に排菌量の増加が見られている。
   り 不規則治療や治療中断により再発している。
・症状が著しく重い場合
・治療開始から2カ月を経ても結核菌培養検査陽性の場合
・糖尿病、じん肺、HIV感染症等の疾患を合併する場合
・副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤を長期にわたり使用している場合
などでは、治療期間をおおむね3カ月間延長できる。
 日本では2014年7月にデラマニド(デルティバ)が承認された.「適応は多剤耐性肺結核のみに限定されており、使用開始後2年間は症例ごとに本薬剤の使用適否を専門家が検討のうえ使用することになっている。
デルティバ錠50mg 大塚製薬
〔効能・効果〕
<適応菌種> 本剤に感性の結核菌
<適応症> 多剤耐性肺結核
《効能・効果に関連する使用上の注意》
  本剤の投与によりQT延長があらわれるおそれがあるので、QT延長のある患者、あるいはQT延長を起こしやすい患者等への投与については、リスクとベネフィットを考慮して本剤投与の適応を慎重に判断すること。
〔用法・用量〕
通常、成人にはデラマニドとして 1 回100mgを 1 日 2 回朝、夕に食後経口投与する。
《用法・用量に関連する使用上の注意》
(1) 本剤の使用にあたっては、耐性菌の発現を防ぐため、 原則として他の抗結核薬及び本剤に対する感受性(耐性)を確認し、感受性を有する既存の抗結核薬 3 剤以上に本剤を上乗せして併用すること。
(2) 臨床試験において継続して 6 箇月を超える使用経験はないため、本剤を長期に使用する場合は、リスクとベネフィットを考慮して投与の継続を慎重に判断すること。
(3) 空腹時に本剤を投与した場合、食後投与と比較してCmax及びAUCの低下が認められることから、空腹時投与を避けること。
○潜在性結核感染(LTBI)
 インターフェロンγ遊離試験(IGRA)はツベルクリン反応と異なり、BCGおよびほとんどの非結核性抗酸菌の影響を受けず、接触者健診をはじめ、結核感染診断に広く使われるる。 最近、クオンティフェロンTBゴールド(QFT-3G)に加えて、Tスポット.TB(T-SPOT)が保険適応こなった。
 QFT-3Gは3本の専用採血管に1mLずつ血液を採取するが、T-SPOTでは1本のヘパリン採血管に、成人では6mL採血するのみで簡便である。しかし測定手技はT-SPOTのほうが複雑である。なお感度・特異度は両者に大きな差はない
 IGRAの適応
①接触者健診
➁医療従事者の結核管理
③発病リスクが大きい患者および免疫抑制状態にある患者の健鹿管理
④活動惟結核の補助診断 
表2 QFT-3GとT-SPOTの比較
   QFT-3G T-SPOT
原理 末梢血を採取し、結核菌特異抗ESAT-6、CFP-10、TB7.7で刺激(16~20時間)。Tリンパ球から遊離されるIFN-YをELlSA法で測定   末梢血より単核球を分離・数の調整。結核菌特異抗原ESAT-6、CFP-10を添加して20時間培養。IFN-γ産生細胞数をELISPOT法で測定
採血  3本の専用採血管(陽性/陰性コントロール、特異抗原)に血液を直接静脈穿刺により各1mLずつ採取  1本の通常のヘパリン採血管に、成人は6mL、2~9歳の小児は4mL、2歳未満の小児は2mL採血する
検体保存 採血後培養までは22±5℃で保存し、16時間以内に37℃のインキュベーターに入れる。培養後の採血管は遠心分離まで2~8℃で3日間保存可能   採血後18~25℃で保存する。8時間を超える場合にはT-Cell Xtendを添加することにより32時間まで検査を行うことができる
計測  lFN-YをELISA法によって測定(測定した吸光度を専用ソフトウェアで計算) マイクロプレート上のウエルに発現したスポットを、血球計算盤を用いて目視、またはスポットリーダーで計測する 
 結核に感染して発病リスクが高い者に対するLTBIの治療は、結核の根絶を目指すために、重要な戦略になると考えられている。〈のは、などである。 
積極的にLTBI治療を検討する対象
・HIV/AIDS、
・臓器移植(免疫抑制剤使用)
・珪肺
・慢性腎不全による透析
・最近の結核感染(2年以内)
・胸部Ⅹ線画像で線維結節影(未治療の陳旧性肺結核)
・生物学的製剤の使用
・多量の副腎皮質ステロイドの使用 
 LTBI治療 成人   小児  
 通常INHを用いる 1日5mg/kg  8~15mg/kg、最大300mg  6ないし9ケ月
 lNHが使用できない場合はRFP 1日 10mg/kg  10~20mg/kg、最大600mg  4ケ月ないし6ケ月
○医療従事者に対する治療
 結核病床を有する病院での医療従者の結核発病は最近減少しているが、一般病院での医療従平常の結核発病は相変わらず多い。院内感染対策委員会および感染制御チームの設置など、院内結核感染予防燥刺の整備が必要である。
 健康診断においては、雇い入れ時のIGRAの実施が推奨され、特に結核患者と接触する機会のある職場では強く勧められている。LTBIのスクリーニングおよび、結核患者と接触した場合のベースラインとして有用である。 
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