世界におけるBCG接種の状況
         戸井田一郎 日本BCG研究所
 結核 Vol.75 No.1:1-7, January 2000
『BCG接種が行われているのは発展途上国のみであって、欧米諸国のような経済的先進国ではBCG接種はもはや行われていない』という結核専門家の発言は誤りである。

1995年のWHOのBCG接種ポリシーを世界各国でまとめたリポートによると

A)ヨーロッパ地域
 50カ国で調査、うちモナコ、スコットランド、サンマリノからの報告はなかった。そのうち47カ国から回答。
 T)特定年齢で全員接種
 T-a)出生時: Albania, Armenia, Azerbaijan,Bosnia & Her2;egOVina, Bulgaria,   
         Croatia, Czech Republic. Finland, Georgia. Ireland, Kazakhstan.
         Latvia, Poland, Portugal, Romania, SloVenla
 T-b)生後3-7日: Belarus, Estonia, Hungary, Kyrgyzstan, Lithuania・ Republic of
            Moldova・Russian Federation, Slovakia, Tajikistan, Turkmenistan,
            Ukraine, Uzbekistan
 T-c)生後8週: Turkey.
 T-d)生後1歳:旧Yugoslav Republic of Macedonia
 T-e) 5-6歳: France, Greece
 T-f) 12-13歳: Malta, Norway

 U)高リスク群のみに出生時、加えて特定年齢で全員接種
 U-a)高リスク群に出生時、加えて5歳と12歳で全員接種: Switzerland
 U-b)高リスク群こ出生時,加えて11〜12歳で全員接種 : United Kingdom

 V)高リスク群のみに接種
 V-a)出生時: Germany, Luxembourg
 V-b)生後6カ月: Netherlands, Sweden
 V-c) 13歳: Israel
 V-d)接種時期の記載なし: Austria

 W) BCG接種プログラムについての記載なし: Belgium, Denmark, Iceland, Italy, Spain

 B)アフリカ地域 :
48カ国が所属している。このうち. ReunionとSaint Helenaからは報告がなかった。この2国を除く46カ国はすべて出生時にBCG一律接種を行っている。

 48カ国のリスト: Algeria, Angola, Benin, Botswana・ Burkina Faso, Burundi, Cameroon. CapeVerde, Central African Republic, Chad, Comoros, Congo, Cote d'Tvoire, Equatorial Guinea,Eritrea, Ethiopia, Gabon, Gambia, Ghana,Guinea, Guinea-Bissau, Kenya, Lesotho, Liberia・ Madagascar. Malawi, Mali. Mauritania,Mauritius, Mozambique, Nambia, Niger, Nigeria, Reunion, Rwanda, Soo tome and Principe,Senegal, Seychelles, Sierra Leone, St Helena,South Africa・ Swaziland, Togo, Uganda, United Republic of Tanzania, Zaire, Zambia, Zimbabwe

 C)東南アジア地域
10カ国が所属する。すべての国がBCG接種ポリシーを定めており, Bangladesh,Democratic People's Republic of Korea (北朝鮮),India, Indonesia, Nepalの5カ国は出生時から生後1週間の間、Bhutan, Myanmar, Thailandの3カ国は出生時から生後1年の間、Maldivesは出生時から生後3年の間, Sri-Lankaは出生時から生後5年の間にBCG接種を行うように定めている。

 D)西太平洋地域
 36カ国が所属する。このうち,Cook Islands, Nauru, New Caledoniaからは情報が得られなかった。この3国を除く33カ国のうち,American Samoa, Australia, Guam, New Zea1and, Northern Mariana islands, Palauの6カ国を除いた27カ国ではBCG一律淳種が行われている。
このうち以下の23カ国では,出生時に接種が行われている。
 Brunei Darussala町Cambodia, China, Fiji,French Polynesia, Hone Kong, Kiribati, LaoPeople's Democratic Republic, Macau, Malaysia, Marshall islands, Federal States or Micro_nesia・ Niue・ Papua New Guinea, Philippines,Singapore・ Solomon Islands, Tokelau, Tonga,Tuvalu, Vanuatu, Viet Nan, Wallis and Futuna Republic of Korea (大韓民国)では生後4週に,Mongoliaでは生後5〜7日に, Samoaでは生後5年で.接種される。
 E)東地中海地域
この地域には以下の23カ国が所属している。
 Afganistan, Bahrain, Cyprus, Djibouti, Egypt,islamic Republic of Iran, iraq, Jordan, Kuwait,Lebanon, Libyan Arab Jamahiriya, Morocco,Oman, Pakistan, Qatar, Soudi Arabia, Somalia, Sudan, Syrian Arab Republic, Tunisia,United Arab Emirates, UNRWA (United Nations Relief and Works Agency for Refugees in the Near East), Yemen
 このうち, Cyprus, Jordan, Leb8.nOnの3カ国を除く20カ国でBCG一律接種が行われている。 Kuwaitで生後3.5- 4年で接種が行われている以外は,いずれも出生時に接種されている。初接種に加えてBabrainでは4〜6歳で, Tunisiaでは6歳で.再接種が行われている。

 F)アメリカ地域
WHOのこの報告シリーズには,アメリカ地域からの報告が見当たらない(WHOの報告には見あたらないので、CDCの勧告を記載。
アメリカ合衆国ではBCGに限らず、ワクチン接種について法律による強制はない。

CDCの勧告では以下のような基準に合致する場合に接種を勧めている

@小児に対して
i)治療を受けていない.または非効果的な治療しか受けていない感染性の肺結核患者と継続的に接触しており.感染性患者から隔離ができず.長期の予防的治療を受けられないような子供。

ii)INHとRFPに耐性の結核菌による感染性肺結核患者と継続 的に接触しており,このような感染性患者から隔離できないような子供。

iii)HIVに感染している子供にはBCG接種は勧告できない。

B医療従事者(Health Care Workers:HCW)へのBCG接種
i)INHとRFPに耐性の結核菌で感染している結核患者の割合が高い状況

ii)このような多剤耐性結核薗によるHCWの感染が起こりやすい状況

iii)広範な結核対策が導入されているが.それが成功していないような状況。

iv)結核菌の伝染の危険が低い状況下のHCWには,BCG接種は勧告されない。

 このように,アメリカ合衆国では,特定の年齢の全員や医療従事者を含めて特定のハイ・リスク集団に対する一律BCG接種は実施されておらず,また勧告きれてもいないが,限られた対象に対してはBCG接種を考慮するように勧告きれている。

 アメリカ合衆国とともにBCG接種を行っていない国の例としてよくあげられているオランダでもBCGは製造されている。
              
 世界のBCG接種ポリシーとBCG接種の状況を紹介した。現在いかに広くBCG接種が行われているかを知ることができよう。

 アフリカ,南北アメリカ,太平洋地域などの発展途上国の多くの国では, WHOのポリシーに従って,生後できるだけ早い時期に皮内注射によってBCG接種が行われているが,ヨーロッパやアジアの発展途上の国々では、それぞれの国の実情と伝統に応じて独自の方式で接種が行われている。

 経済的先進国においても,一律接種方式,選択的接種方式の違いはあるが,それぞれBCG接種についてのポリシーがあり,それに応じて接種が行われている。

BCG接種が全く行われていない国などはない。

 経済的先進国の代表としてG8諸国を取り上げてみても,日本、イギリス,フランス,ロシア連邦では特定年齢での一律接種方式を採用していて,日本以外の3カ国では法律に基づく義務として接種が行われている.イギリスはやや特殊な形ではあるが.これらの4カ国では再接種も行われている。

ドイツでは,州ごとにポリシーが違っていて、州によっては一律接種、州によっては選択的接種が行われている。

アメリカ合衆国では.、CDCの勧告に従って限られた対象に対して接種が行われている。

 BCGについては効果や安全性について多くの論議が交わされているが.ごく近い将来.例えば数年の間に,BCGより優れた結核予防ワクチンが実用化される可能性はほとんどゼロである。

新しいワクチンの開発が重要であることに異論の余地はないが、現在すでに手の内にあるBCGワクチンのより適切な利用を検討することも新ワクチンの開発に劣らず重要であり,そのためにも,現状の正確な認識が必要と考える。


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