結核に対する新キノロン薬の有用性
国立療養所南岡山病院医長・第二内科
日本医事新報 No.3896 98.12.26
  現在わが国では11種類の抗結核薬が承認されているが、主要薬剤を除けばその効果に比し副作用の頻度が高く、かつ症度が重い薬剤が多い。
したがって、既存の抗結核薬に対して交差耐性のない、強力でかつ副作用の少ない新しい抗結核薬の開発が切望されている。しかし、わが国ではRFPが導入されて以来、新しい抗結核薬は承認されておらず、近い将来臨床に導入される可能性のある抗結核薬もきわめて少ない」
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 新キノロン薬は経口薬にもかかわらず、帽広い抗菌スペクトル、優れた抗菌活性、良好な体内動態などを有しており、臨床の場において頻用されている合成抗菌薬であるが、1983年に束村がその一つであるオフロキサシン(OFLX)の優れた試験管内抗抗酸菌活性を報告し、一般の感染症治療薬としてのみならず新たな抗結核薬の候補としても注目されることとなつた。

すなわち、OFLXは既存の抗結核薬に対して交差耐性を示さず、特に結核菌、M.kansasii、M.fortuitumなどに対して優れた抗菌活性を有し、その良好な気道移行性から結核症などの抗酸菌症に対す臨床効果が十分期待できる薬剤と評価された。

 きらに、束柑らは1985年には多剤耐性難治性肺結核19例に対してOFLX300mg一日一回の単独あるいは排菌に至らなかった坑結核療法に上乗せする準単独投与を6〜8ケ月継続し、5例(26.3%)において排菌停止を認めたことを報告した。

 その後いくつかの追試がなされ、14.3〜59.1%の菌陰性化率が報告され、本剤の抗結薇薬としての臨床的有用性が再確認された。さらに、その副作用は既存の抗結核薬に比し頻度が低く、かつ症状も軽いことより、安全性についても大きく評価されている。
ただ、OFLXに対する耐性菌は早いものでは投与後2カ月から出現することが知られており、さらにこの耐性菌は他の新キノロン薬との間に交差耐性を示すことより、本剤を多剤耐性例などに使用する場合には慎重を要するものと思われる。耐性菌の出現を回避すべく本剤の単剤投与などは避け、できるだけ多くの有効な薬剤と併用するこ上が肝要であろう。

 当然ながら他の新キノロン薬にも優れた抗抗酸菌活性を有する可能性が秘められている。すでに構造相関が証明されているが、現在わが国で市販されている新キノロン薬9剤の中ではOFLX以外に、シプロフロキサシン(CPFX)、スバルフロキサシン(SPFX)、レボフロキサシン(LVFX)の抗抗酸菌活性が評価されている

 その中でLVFXはラセミ体であるOFLXの光学活性l体でOFLXの活性本体とされており、呼吸器感染症あるいは尿路感染症に対するLVFX一日300mg投与とOFLX一日600mg投与の比較試験の成績では、LVFXの副作用はOFLXに比し明らかに低いことより、結核症においてもLVFX300mg投与によりOFLX600mg投与と同等の効果が得られ、副作用はさらに少ないことが予想される。

 また、この四剤の中ではSPFXが最も優れた抗抗酸菌活性を有しているが、本剤の長期投与にまる光線過敏症には注意を要する。

 現在治験中の薬剤の中ではガチフロキサシン、CS−940、Du−6859aなどはOFLX、CPFX、LVFXと同等、あるいはこれらよりさらに強力な抗結核菌活性を有しており、その臨床効果が大いに期待されている。

 なお、初回治療例に対する併用療法の中でOFLXとEB、CPFXとRFP、CPFXとPZA・EBが比較されているが、OFLXとEBは同等CPFXはRFP、PZA・EBより劣ると報告されており、初回治療におけるニューキノロン薬併用の意義は明らかではない
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 このように新キノロン薬は臨床的には抗結核薬として認知され、副作用例、多剤耐性例、重症例などに使用されているが、残念ながら未だ保険適用は認められていない。

略号
商品名
CPFXシプロキササン
LVFXクラビット
OFLXタリビット
SPFXスパラ

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