特集 再興感染症としての肺結核
座談会 結核診療の今日的な在り方(抜粋)

日本内科学会雑誌 89(5):116-138 平成12年5月10日
司会:曽根三郎(徳島大学第3内科)
    和田雅子(結核研究所疫学研究部)
    川城丈夫(国立療養所埼玉病院)
    山口 亘(大阪市西成保健所分室)
    星野茂則(国立刀根山病院内科)
結核の外来治療
●排菌の有無にかかわらず患者さんのためにも出来る限り外来で治療すべきだ
 家族に若い人がいるからという理由で,入院させられるが,発見された時点で既に感染しいるから,今更隔離は必要ない。(山口)

●他の人に移す可能性があれば,排菌患者さんを隔離する必要が?(曽根)

●化学療法を正しく開始すること,治療を始めれば1カ月以内に感染性はなくなる。
その間は人との接触を避ける。
高度の医療を必要とする重症例や合併症治療のための入院は必要(山口)

●1950年代のインドのMadras Studyでは入院治療と自宅治療群との間での治療成績には差がなかった。家族内感染についても。(和田)

●日本では菌陽性を理由に入院させ,培養陰性が確認されるまで退院出来ない。(山口)

最初は短期間でも入院し,化学療法をきちっとやる。きちんと治療することが大事であるということを知ってもらう。最少必要限度,排菌している場合には入院してもらう(川城)
●入院治療と外来治療で,将来何の差もない(山口)
きちんとしたレポートは日本にはないが、大阪府立羽曳野病院の外来で,初回菌陽性例を長年治療して来たが,それ以前に1,2カ月入院させました患者さんとで,治療の効果に全く差を感じない。脱落も当初の入院の有無とは関係ない。(山口) 
現在、日本の結核症の平均入院日数は90日ぐらい。羽曳野病院1997年の平均入院日数は112日。山口)
●入院治療か外来治療かというのは,科学的には根拠がまったくない。
外来で診療することを日本全体が受け入れるようになったら問題はない。
現在,入院治療を患者本人も望んでいる。周りの社会,会社とかも望んでいる。
医療機関もベッドを埋めるためにいいというのが現状。外来治療をやろうというふうに誰かが音頭をとる必要がある。(和田)
●結核と診断されると即入院というのが,今だにわが国では世間の一般通念。
主治医や保健所から入院を勧められると,万難を排してそれに従う。医療側が実賎を通じてまずそれを断ち切らない限りだめ。
WHO結核専門委員会の1964年の第8報告,1974年の第9報告はあらゆる面での対照試験の結果から,入院治療の必要性を否定されている(山口)

結核治療とPZA
和田 
●PZAを使うのは,耐性の発現を抑えるという意味で非常に重要
6カ月治療のほうが中断する人が少ない。PZAを加えた6カ月治療540例中,中断は28例(5.2%)でしたが,9カ月治療252例中18例(7.1%)が中断しています。(和田自検)
●日本は従来,耐性の頻度が低い低いと言われている,これは耐性の農度の違いによる。世界的にはINHは0.2μg/mlだが,日本は1.0μg/mlで耐性と判定。
従来は1.5%しか初回耐性がないと言われていたが,1997年のデータではINHの初回耐性の頻度は4%超えたと聞いてる。WHOもCDCもINH初回耐性の頻度が4%以上の国では,初回治療は4剤で開始すべき。
山口 
●INHの耐性については,私は0.1マイクログラムで完全耐性を示せば主要薬剤とはならないと主張して来ましたが,初回耐性を考慮に入れれば,PZAを含む4剤併用が最善の処方ですね。
曽根 
●厚生省から結核医療の基準について一部改正が昨年の11月24日付け通知
INHの耐性判定薬剤濃度が0.2マイクログラムに引き下げらた
抗結核薬であるカプレオマイシン(CPM)が製造中止となったため削除。
山口 
使用量も1.5グラムであれば副作用は余り心配ないです。
星野 
●PZAは強い肝障害を招くことがあるので,外来治療ではPZAをはずす。
川城 
●脱落するかもしれないと思われるような患者にも積極的にPZAを入れて,途中で脱落しても,ある程度は治療できたと思えるようにしている。
 山口 
●軽症例でリファンピシン(RFP)とINHが使える場合は,PZAの追加で有意差はないと思う。
 山口 
●エタンブトール(EB)は日本での評価は高いようですが,有力な薬剤ではない。欧米では以前からRFP,INH,PZAの3剤併用が最も強力な処方とされている。
しかし初回耐性の頻度が上昇すれば,硫酸ストレプトマイシン(SM)かEBを加えた4剤とする。
 山口 
●病状や合併症から高度の医療を必要とする場合は,当然専門施設に紹介する。
再治療例で未使用薬の多剤併用となる場合も副作用のチェックを含め入院が必要。
しかし菌陽性例でも,その他の患者は是非診療所の外来で治療願いたい。
●通院治療を強く希望する患者もいるわので,無理に入院を説得するのでなく,病院の外来で1カ月治療し,その後地域の主治医のところで治療を継続することを勧める。そのことが,診療所医師の貴重な経験にもなります。

初回治療と薬剤耐性
星野 薬をやめるタイミングが今ひとつ分からない。

山口 初回治療時に主要薬剤に感受性があれば短期治療後の早期の再発例は,通常初回時の薬剤で治療の再開が可能です。しかし初回時の耐性が不明の場合,主要薬剤の耐性も考慮すべき。

和田 菌が掴まらないのにダラダラやっていたらいけない。菌がなかったら,とにかく6カ月でやめること。INHだけが耐性だったら,INHとRFPを使っていても,RFPは耐性にならない。後はフォローアップするということ。
何かあったらいらっしゃいと必ず言っておくと,患者さんは「同じような症状が出ました」って来ます。
しかし,最近ニューヨーク市の結核対策の中で,薬剤感受性がわからない例については4剤餅用し,PZAを2カ月で終了すべきではないといわれています。

和田 基準としては,何も症状がなくでもトランスアミナーゼが正常値の上限の5倍以上になった場合,150IU/Lぐらいになったら止める。
でも,それ以下だったら1週間に1回ずつ肝機能検査をやって投薬を続ける。
ただし,肝炎の自覚症状があって,トランスアミナーゼが上昇したものに関してはまず中止して,肝機能検査を1週間ごとにチェックし,回復してからまた再投与

多剤耐性の問題
抗結核薬以外の治療は?
インターフェロンγの吸入療法がLancetに報告あり。多剤耐性に効果があった。吸入しているときは効果があるが中止するとだめ。
●多剤耐性に丸山ワクチンが効果があった。
アンザー20の無作為比較試験中である。細胞性免疫を担うTH1タイプのリンパ球の反応。
●ツ反陰性者に対してのBCG追加接種には反対(和田)、BCG接種後ツ反が陰性でも防禦免疫は出来ている。
私見)
排菌していても余程の理由がないかぎり入院治療の必要はない。とのことだが結核予防法でもその点があいまいで、保健所の対応もその点がはっきりしない。この意見を言われても現場の医師が混乱する。早急に国レベルで考え方を統一してほしい。

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