健康診断で発見された肺結核(抜粋)
費用VS効果?
呼吸:15(8)859-865、1996
全国の保健所に報告された検診の結果をもとに作成したものである。最近の結核患者の約80%は自覚症状で医療機関を受診しており、20%が検診発見と考えられる。平成5年の結核患者の新登録数は47,437件であり、法定の健康診断で発見された結核患者は4,105人(8.7%)であった。患者発見の効率は事業所の定期検診が最も低く,10万人検診して7.7人の患者が発見できるにすぎないのに対して,患者の家族では100人検診して5.8人の患者が発見でき,その差は752倍である.このように結核患者が偏在しているため,検診の対象集団により患者の発見率が著しく異なっている。

愛知県健康づくり振興事業団の]線撮影料を代用して費用を推測すると,患者1人を発見するのに要した費用は,家族検診が23万円強に対し、事業所検診では1,300万円弱で55倍になる。費用対効果を高めることにより,発見効率は向上するが,検診を止め
たために早期発見されなくなる患者は自覚症状が出るまで放置されることになる。現在,わが国では結核は国民の意識からほば完全に消え去り,一般の医師の関心も極端に低下した。検診方法を変更する場合は同時に,いわゆるpatient's delayやdoctor's delayをできるだけ短(するよう,一般国民の啓蒙と医療関係者の教育・研修が重要となる。
健康診断による早期発見の有効性の検討
1.患者のQOLの利点
 入院治療と外来治療では患者のQOLに二大きな差がある。入院治療では労働は全く不可能である。しかも.治療期間が長期化すれはさらにQOLが悪化することになる。検診発見群には比較的軽症例が多いので、検診発見例のQOLが自覚症発見例のQOLよりも優れていることは容易に推測できる。

2.医療費の観点から
 日本結核病学会の治療委員会による肺結核の標準治療を,大学病院の外来で1カ月に1度の通院で行った場合の薬剤料と診察料を1996年4月改定の健康保険診痺報酬から試算してみた。RFP,INHの2剤で6カ月間治療した場合と,RFP,INH.EB(エタンフ’トール)の3剤で12カ月間治療した場合を比較すると,薬剤科と再診料だけでも倍以上の費用がかかり,薬剤数よりも治春期間の影響が大きいことが分る。
 
 もちろん実際診療では胸部X線撮影や血液検査,生化学検査などの検査科が必要であり,排菌例では入院治療が必要となるであろうから、これより多(の費用がかかることになる。明らかなことは治療期間が長いほど多くの費用がかかり,通院のための患者の労働不能時間まで含めれば,かなり多くの費用と労働損失が計上されることになり,結核の短期治療が望まれる1つの理由となっている。

 単純に治寮費のみに関していえば,健康診斬で発見するのが望ましい。しかし,有限の医療資源を有効利用するという観点からは国民経済的に健康診断に必要な費用と,健康診断をしなかった場合の治療費などへの影響の予測を含めた詳細な研究に待たねばならない。患者発見率の極端こ低い事業所検診などは放射線被曝も考えれば再検討が必要ではないかと思われる。

胸部X線撮影と結核患者の発見数
(厚生の指標 41:1994より引用)

間接撮影
直接撮影
発見された結核患者数
(1患者発見に要する費用**)
被検者数
発見率%
推定費用*(円)
被検者数
発見率%
推定費用*(円)
総数
21,340,429
0.0192
17,072,343,200
1,725,141
0.2379
2,967,242,520
4,105(4,881,750円)

定期分
2,017,432
0.0153
16,813,945,600
1,618,129
0.1981
2,783,181,880
3,205(6,114,548円
事業者
7,789,887
0.0077
6,231,909,600
856,097
0.0702
1,472,486,840
601(12,819,295円)
学校長
3,140,239
0.0104
2,512,191,200
145,698
0.2238
250,600,560
326(8,474,821円)
施設の長
217,124
0.0470
173,699,200
47,287
0.2157
81,333,640
102(2,500,321円)
市区村長
9,870,182
0.0220
7,896,145,600
569,047
0.3824
978,760,840
2,176(4,078,541円)
定期外分
322,997
0.2786
258,397,600
107,012
0.8410
184,060,640
900(491,620円)
患者家族
8,597
5.7927
6,877,600
63,191
0.7881
108,688,520
498(232,060円
その他
314,400
0.1279
251,520,000
43,821
0.9174
75,372,120
402(813,164円)

*:間接撮影費用は1件800円、直接撮影は1件1,720円として試算
**:間接撮影と直接撮影の費用の合計を発見患者数で除したもの
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