肺Mycobacterium avium-intracellulare complex症の化学療法の検討
結核75(7):471-,2000
 非結核性抗酸菌症は近年増加傾向にあり,国立療養所共同研究班の報告によるとその履患率は1996年で人口10万対3.2人と推察されており,特に抗酸薗陽性の入院患者の15%程度の比率を占める。なかでも人への病原性を有する抗酸菌菌種のうちMAC症が全体の約70%を占めている。

肺結核症のように確立された化学療法がない。
@臨床用量で殺菌的な効果を有し,かつ副作用の少ない薬剤がない
Ain vitroの薬剤感受性試験が確立されていない。
B実際の臨床効果がiin vitroの感受性試験の成績と相関しない。

1990年の米国胸部疾患学会(以下ATS)の見解では,肺MAC症の治療では薬剤の感受性試験は有用でなく,個々の治療の臨床経験の集積に依存すると述べられている。このために肺MAC症に対して,化学療法単独では短期的に菌陰性化等の効果が得られても,長期的には再排菌を繰り返して徐々に進行する例が多いとされる4)。しかし近年肺MAC症にStreptomycin等のアミノ配糖体やClarithromycinを中心としたニューマクロライド剤やCIprofloxacin等のニューキノロン剤を併用することによって短期的には優れた治療成績も報告されている。

さらに1997年のATS見解は,Rifabutin,Ethambutol,Clarithromycinにアミノ配糖体を加えた治療を12〜18カ月行うように勧告している。

また1998年の日本結核病学会の見解ではニアミノ配糖体にRifampicin,Ethambutol、Isoniazid等の3剤を併用し,難治例にはClarithromycinを追加することを提言している。今回肺MAC症に対してこのATS見解に準じた化学療法を行い,その臨床効果および副作用・薬剤耐用性・予後因子について検討した。
RFP450mg、EB500〜750mg、クラリス(CAM)600mg(体重40kg以下は400mg)を18〜24ヶ月または排菌が12ヶ月停止するまで投与。

聴力障害、腎機能障害のないものにはSM0.75〜1gを週2〜3回、2〜3ヶ月併用する。
ま と め
(1)肺MAC症27例に対してATS見解に準じたRFP,EB,CAM,SMの4剤併用療法を行い.排菌停止48%,画像上の改善41%であった。副作用は低率であった。

(2)CAMの用量が諸外国の報告と比して低量であり,これが奏効率に影響しているものと考えられるため,今後検討する必要がある。

(3)胸部]線上の病変の拡がりが,治療効果に相関する傾向がみられた。

(4)排菌停止と画像上の改善は必ずしも併行しない例がある。治療効果の評価には,排菌経過と画像の経過を総合する必要がある。
近年本邦のavium complexの臨床分離株に対するCAMの抗菌力も報告されている。斉藤らは,CAMのMIC50値はM avium で12.5mcg/ml,M intracellulareで6.25mcg/mlでin vivoにおいても良好な抗菌活性を有すると報告している。

さらに山本らは,CAMを12mg/kg以上使用した群がそれ以下の群よりも治療成績が良いことを報告している。

ATS見解では,CAMは1000mg/日を投与することを推奨しており,RFB,EB,CAM,SMとの4剤併用によって70〜90%の菌陰性化率を報告している。

また重藤らは,多剤併用療法の長期成績を検討し,3剤より4剤を併用した群の治療成績が良く,特にアミノ配糖体を併用した群で良好であると報告している。

今回の検討例の治療成績が,アミノ配糖体を併用しているにもかかわらず従来の本邦の報告と不変であり,かつ諸外国の最近の報告より悪いのは,CAMの投与量の不足およびRFPより強い抗菌活性を有するRFBが使用できないことも一因であろう。

 次に肺MAC症の除菌効果に影響する因子について検討した。今回の検討症例はニューキノロン剤を追加した治療例を検討から除外しているために,再治療の例数が少なく,治療歴の因子は検討しなかった。またM intracellulare群の症例数が少ないため,菌種間の除菌効果の差は検討しなかった。

次に,胸部]線上の病巣の拡がりは重要な因子である。検討症例では,日本結核病学会の拡がり分類2と3の群は排菌持続の割合が増大する傾向を示した。山本,水谷,下出らは既治療例や胸部]線上有空洞例・病巣の拡がりが大きい例が難治性であることを報告している。

岡村ら,水谷・和田らは肺MAC症の予後因子としてhostのリンパ球数,総蛋白・アルブミン値,コリンエステラーゼ値,栄養状態を採り上げ,栄養状態の改善が治療上重要としている。病巣の拡がりが大きく栄養状態の不良の症例は,難治性で予後不良であるといえる。

ところで排菌の停止・少量化と画像上の経過が相関しない場合があり,治療の指標として画像上の改善も併せて検討すべきと述べている。今回の検討症例で排菌経過と画像上の経過との関連を検討すると,排菌停止例は61.5%が画像上改善,排菌持続症例は91.7%が画像上不変または増悪した。

 また,排菌停止しても画像上改善しない例を5例認めた。2例で排菌停止後も画像上新たに散布巣が出現,3例で結節陰影,浸潤陰影に変化を認めなかった。

ATS見解では排薗停止が治療のEnd−Pointとされているが,排菌経過と画像上の経過が相関しないこともあり,治療の効果判定には排菌・画像の経過の判定が必要である。すなわち,排菌停止・画像増悪例には他疾患の合併も考えて,気管支鏡等の検査も必要と考えられる。


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