慢性排菌例の感染性
結核病学 U疫学・管理編 財団法人結核予防会(平成5年版)
 慢性排菌例の感染源としての危険性については,このような患者の家族と,当初は排菌していたが,順調に薗が陰性化した症例の家族の発病状況を比較した齋藤の成績がある。排菌持続例の家族の発病率は,対照群に比し高くはなっていない。

ただ慢性排菌例では,39例中登録時に30例,平均8・昨経過した調査時にも20例が入院していた。

長期入院なので,時々外泊し,あるいは家族が見舞いに来る等,患者と接触する機会は絶無ではないが,同居している場合に比較すると少なく,これが発病が多くない原因かもしれないということで,参考のために結核予防会の外来で治療中の慢性排菌例の家族についても調査してあるが,表にみるように発病率は対照群と差はない。

したがっで慢性排菌例の感染性は,それほど心配しないでよいようである。
 この理由として,次の三つが考えられる。
@排菌は持続していても,菌量は少ないことが多い。(塗抹で陽性でも,培養でのコロニーは少ない場合が多い。)

AINH耐性性菌の毒力は人に対しても低下していると推定される。(INH高度耐性菌は,動物に対する毒力が著明に低下している。

図2−3に示した薬剤の種類と濃度別に,既往治療有無で耐性の頻度の相関をみた成績では,両者に密接な相関がみられているが,INHの高度耐性だけは既治療群には多いが,未治療群では極めて低く,INH高度耐性菌では感染が起こりにくいのか,感染しても発病しにくいのか,そのいずれかであることが示唆されている。)

B本人も周囲の人も,排菌を知っているので,感染に注意している。

 ただ最近米国でのAIDS患者を収容している病院で,多剤耐性患者が感染源となって起こった集団感染の事例をみると,INH耐性でも感染,発病が起こっており,免疫が低下した個体ではINHを含む多剤耐性で感染、発病が起こると考えて対処する必要がある。
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