結核の再発要因について
阿彦忠之(山形県村山保健所 所長)
地域で見た結核の現状
メジカルビュー社 Mebio Vol.16 No.11に掲載

結核発病の背景因子
 菌陽性肺結核患者のうち,結核発病の危険因子(ハイリスク因子:文献3)に該当する既往歴または疾患を 合併している者が全体の48%に及んでいた(表4)。

この割合は10年前に比べて明らかに増加しており, 結核のハイリスクグループに患者が偏在化していることを示していた。とくに,糖尿病の合併例は著しく増加していた。(注:羽曳野病院亀田先生の報告では糖尿病の合併は再発率には影響しない、そのコントロール不良が問題との意見あり。結核UP to Date P92-93

このほかに,胃切除歴(胃がん罹患率の高い山形県の特徴かもしれない),腎不全(人工透析),副腎皮質ホルモン治療などの増加も目立った。

しかも,このようなハイリスク因子を有する者ほど「診断の遅れ」が長いという傾向があり,日常診療における結核への配慮不足が浮き彫りにされた。高齢化の進行や糖尿病の増加傾向などを考慮すると,結核患者のハイリスクグループへの偏在化は今後さらに強まると推定される。

したがって,結核のハイリスク因子に関する情報を医学教育や地域医療の現場に周知し,結核の発病予防や早期診断を促す努力が必要と思われた。なお,結核発病の背景因子については地域ごとに格差があると推定される。山形県は1997年の結核罹患率(人口10万対)が24.3であり,全国(33.9)に比べて低蔓延の地域である。

結核の高蔓延地域や大都市などにおける背景因子には,今回紹介した結果とは違った特徴があると思うので,地域ごとに分析して,その結果を医療従事者に還元することが重要である 

<参考文献>
1) 阿彦忠之:予防可能例の実態からみた日本の結核対策(結核対策の新しい評価の試み).結核 66:577-587,1991.
2) 厚生省保健医療局結核感染症課:結核の統計1998.(財)結核予防会,東京,1998.
3) CDC:Screening for tuberculosis and tuberculosis infection in high-risk populations: Recommendation of the advisory committee for elimination of tuberculosis. MMWR 39(no.RR-8),
特集 再興感染症としての肺結核
結核流行の変遷と問題点(要約)
日本内科学会雑誌 89(5):(4)−(10) 平成12年5月10日
A『結核弱者』への発生偏在
表1.結核発病のリスク要因の合併状況(阿彦)
平成11年度結核対策従事者地区別講習会(東北・岩手)講義資料、1999
菌陽性肺結核患者総数138(100%)
なんらかの要因あり47.8%
糖尿病治療中13.8
胃切除歴あり12.3
悪性腫瘍治療中5.8
副腎皮質ホルモン薬治療中4.3
慢性腎不全(透析)2.9
珪肺1.4
胃潰瘍治療中1.4
大量飲酒1.4
明らかな低栄養1.4
]線上未治療硬化巣3.6
最近の明らかな感染歴あり6.5

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