QuantiFERON−TB第二世代
第80回 日本結核病学会総会抄録より 2005.5.12-13 埼玉県
結核 Vol.80,No.3,2005
QuantiFERONTB第二世代の基礎的特性
○原田登之、樋口一恵、森 亨(結核予防会結核研究所)
結核感染診断法は従来ツベルクリン反応(ツ反)を用いていたが、ツ反に用いる精製ツベルクリン(PPD)がBCG非結核性抗酸菌の抗原と高い類似性を持つため、BCG接種あるいは非結核性抗酸菌感染によっても陽性になる場合があり、ツ反は特異性の点で重大な欠点となっていた。これ以外にもツ反は、判定のため再受診、PPD注射および測定における施術者の誤差変動、PPD投与によるブースター効果等の弱点を持つ。

これらツ反の持つ欠点を改善するには、何らかのin vitroにおける生体反応を誘導しうる結核菌特異抗原を用いる方法が考えられる。このような抗原の存在が、デンマーク国立血清研究所のPeter Andersenらのグループにより明らかになった。彼らは、マウス記憶T細胞からInterferon−γ(IFN−γ)産生を強く誘導する結核菌抗原ESAT−6を結核菌培養濾液から精製し、その遺伝子をクローニングした。その後の解析の結果、ESAT−6の遺伝子は全てのBCG亜株と大部分の非結核性抗酸菌には存在せず結核菌群とごく一部の非結核性抗酸菌にのみ存在することが明らかになった。さらに、ESAT−6と同様の活性を持つ抗原CFP−10が同じ遺伝子座に位置していることも判明した。

これらの発見を基に、BCGには存在しないこれらの抗原を刺激抗原としてリンパ球を刺激し、誘導産生されたIFN−γ量を簡便に測定することにより、BCG接種の影響を受けること無く結核感染を診断する方法QuantiFERONT第二世代(QFT−2G)が開発されるに至った。また、QFT−2Gでは、採血した翌日にELISAによるIFN−γ量の測定ができ、また測定は機器によりなされるため、より迅速かつ客観的な結果が得られ、さらにツ反の様に生体にとっての異物を授与しないため、ブースター効果を考慮する必要がなく、医療施設に再受診して反応結果を測定する必要もない。

すなわち、QFT−2Gは前述のツ反の持つ多くの問題点を克服しうる診断法である。 我々はQFT2Gの治験を行い、その有用性を検討した。治験の成績より、スクリーニングとして診断に適切なカットオフ値0.35IU(国際単位)/nllが算出され、本カットオフ値におけるQFT−2Gの感度および特異度は、それぞれ89.0%と98.1%という極めて優れた数値であり、QFT−2Gは予想通りBCG接種の影響を受けず、結核感染を感度良く診断出来ることが明らかになった。

さらに、我々は数多くの定期外健診に際してQFT−2Gを試行し、接触の度合いとQFT2G陽性率が相関する結果を幾つか得ている。すなわちこれらの事実は、QFT2Gが発病前の潜在性結核感染をも検出できることを示唆しており、従って今後定期外健診においても威力を発揮すると考えられる。

また、多くの定期外健診において、従来のツ反による診断法では感染と診断され予防内服対象となりえる者の大部分がQFT2G陰性であったことから、これまでは過剰な予防内服を行っていた可能性が示唆されてきた。現在定期外健診におけるQFT−2Gの対象者は、現行の化学予防基準であるツ反発赤30mm以上の者が大部分であるが、今後QFT−2Gを定期外健診に使用する際、潜在性結核感染者の見落としを防ぐために考慮すべき問題が少なくとも2点ある。

第1の問題は、QFT−2Gの感度に由来する見落としであり、第2の問題は、QFT−2Gの被験者を絞り込む基準よる感染者の見落としの可能性である。本ミニシンポジウムにおいては、これらの点を中心に論議を進め、同時にツベルクリン反応とESAT−6/CFP−10に対する反応の相関性、高齢者での反応等、これまで我々が得たQFT−2Gに関する知見を紹介したい。また、刺激抗原としてPPDを用いたQuantiFERON−TB第一世代から次世代のQFT、さらにQFT−2Gと同じ抗原を使用した結核感染診断法ELISPOT(製品名:TSPOT−TB)とQFT−2Gとのパフォーマンスの比較についても述べてみたい。
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ミニシンポ2
QuantiFERON−TB第二世代の臨床・疫学的応用
○鈴木公典(ちば県民保健予防財団)
 原田登之、森 亨(結核予防会結核研究所)
結核予防法の一部が改正され平成17年4月より施行となり、新しい結核対策が行われるようになった。新しい対策を効果的に行うためにも技術革新が必要で、なかでも新しい結核感染診断、すなわち感染診断のための免疫学的診断、特異抗原に対する全血IFN−γ応答測定法(QuantiFERON−TB第二世代、以下QFTと略す)有望と考えられる。患者発見対策の中でも接触者健診がより一層強化されることとなり、QFTは対象者の中から的確に感染者を発見して化学予防に導き、発病予防に有用とされ、さらに医療関係者の採用時や定期健診への活用が考えられる。今臥今までの発表例と自験例から接触者健診、定期健診等におけるQFTの臨床・疫学的応用についてまとめた。

某高校の接触者健診時、化学予防者を結核定期外健康診断ガイドラインに基づいてツベルクリン反応(以下ツ反)の結果及び接触状況から判断した場合と、追加実施したQFT検査の結果を考慮した場合とで検討した。高校は単位制のため、在籍クラスでの授業は過2回のみで、毎日のホームルームは10分程度で、同一学年の他クラス生徒と一緒の授業が多く、有症状時に授業、部活動で接した先生、生徒、親しい友人もおり、接触者健診の対象者が185名となった。2ケ月後にツ反を行い、接触状況や過去のツ反結果を参考に検討したが、化学予防者の選定は困難であった。しかしツ反に基づく50名以上の化学予防予定者について行ったQFTの結果、陽性者は13名となった。

化学予防者の選定にあたってはツ反の結果や接触状況のみの判断だけではなく、QFTの結果を参考にすることにより適切な化学予防の実施が可能と考えられる。

今までの接触者健診事例から集団でみると濃厚接触群はどQFTの陽性率は高く、塗抹陽性患者の発生のあった学校でも学童、生徒のツ反強陽性の95%はBCGのためと考えられた。院内感染事例では前回と今回のツ反発赤径の差が20mm以上でもQFTが陰性のこともあり、逆にツ反発赤径が20mm台のなかにもQFT陽性者がいることもあった。さらに対象が濃厚接触群数十名、外来受診者その他接触者群数千名のように対象数が多い事例では、BCG既接種者でツ反10mm以上の濃厚接触者群に全例QFTを行うことにより、根拠を持って健診範囲を決定でき、化学予防者の選定に有用であった。濃厚接触者群であるがQFT陰性のものでは、発病リスクがある場合に経過をみてQFTを再検査することで陽転を把握し、発病の前段階で発見できた症例もあった。

病院(結核病床有り)の職員332名(平均年齢41歳)にQFTを行い、陽性率は9.9%(対象者の年齢構成から推定される既感染率10・8%とほぼ一致)で、外来勤務歴が有るもの、結核病棟勤務歴が有るもの、年齢が高いものはど陽性率が高かった。
しかしツ反発赤80mm以上のものでも陽性率は35%であった。また別の病院(結核病床有り)の職員129名(同37歳)ではQFT陽性率は5・4%、ツ反強陽性者中では10.3%(4/39)であった。

二段階ツ反でベースライン37mmlから60mmこ増大した例があったがQFTは陰性であった。高齢者施設の職員165名(同37歳)ではQFT陽性率は2・4%であった。さらに高齢者施設(同85歳)の入所者167名の陽性率は18.6、別の施設の入所者68名(同80歳)では26・5%で、推定される既感染率よりかなり低かった。

結核感染危険率が低下し、再接種が普及している現在の日本では、二段階ツ反を含めてツ反の大きさから感染を判断するのは困難であり、今後は医療関係者、高齢者施設の入所者の健診時にはQFTを検査し、陽性者にはX線を含めて総合的に判断して化学予防も考慮し、陰性者には翌年もQFT検査を行うことが考えられる。

その他40〜69歳の一般住民1565人の陽性率は7.1%で、対象者の年齢構成から推定される既感染率30.6%に対し低いことから、一般人口の既感染率はこれまでの推定より低い可能性がある。一方、古い感染ではインターフェロン応答は低下する可能性も考えなければならない。また結核の治療によって応答は低下するともいわれるが、その程度や経過についてはまだ所見は確立されていない。

QFTは採血後12時間以内に抗原刺激が必要である、感染からどの程度の期間で陽性になるのか、偽陰性を診断できるのか等の問題点もあるが、今後接触者健診、医療関係者の採用時や定期健診だけでなく、高齢者施設の入所時健診にも応用されていくと考えられる。

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