新しい有望な抗結核薬が臨床試験段階に
Medical Tribune 2005.7.14
〔ニューヨーク〕米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)は,活発に分裂する結核菌と成長の遅い結核菌の両方に有効と見られる有望な新薬候補についてヒトでの試験を開始したと発表した。この新しい抗菌薬PA−824は,世界で年間200万人以上を死亡させる結核の治療期間を短縮するものと期待されている。

2つの段階で攻撃
 NIAIDは,抗結核薬開発の世界同盟(TBAlliance)と協力して,PA−824の前臨床試験を行い,動物モデルを村象に安全性と有効性を検討してきた。今回,PA−824の安全性を評価する臨床試験がTBAllianceの支援によりネブラスカ州リンカーンの病院で開始された。
 NIAIDのAnthonyS.Fauci所長は「PA−824の開発が迅速に進んでいるのは,NIAIDとTBAllianceの協力が成功していることのあかしである。これは結核治療の有効性を高め治療時間を短縮させる目標への重要な一歩で\ある」と述べた。

 世界人口の3分の1に当たる20億人が結核菌に感染している。潜在的に感染していて,結核菌が成長しない形でまたはゆっくりと成長する形で何十年も潜んでいながら症状が現れないこともある。しかし,免疫系が年齢,HIV,他の感染症により弱められれば,結核菌が再活性化して,盛んに活動し始める可能性がある。

 活動性結核は,HIV有病率がきわめて高い国では非常に一般的である。米国では毎年,約1万4,000例が米疾病管理センター(CDC)に報告されている。

 結核は抗菌薬で治療可能であるが,薬剤療法はたいへんな手間と時間がかかる。世界保健機関(WHO)が現在推奨している活動性結核の治療法は,6か月以上にわたり最大4種類の薬剤を投与することになっている。PA−824が,現在最も一般的な抗結核薬と異なる点は,結核菌が活発に分裂する段階とゆっくり成長する段階の両方で攻撃すると見られることである。そのため,PA−824は結核を治療するのに必要な時間を著しく減らすと考えられる。

 2000年に,Pathogenesis社のC.Kendall Stover博士とNIAIDのClifton E.Barry,III博士らは,PA−824に結核を治療する潜在的な能力があるとする証拠を初めて発表。TB Alliance(提携、同盟)は2002年に,カリフォルニア州のChiron社からPA−824に関する世界での独占的権利を取得した。

 NIAID(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)は,その抗結核薬収集調整機関(TAACF)を通してTB AllianceにPA−824の継続的な開発進のための支援を行っている。TAACFはNIAIDにより1994年に設立され,化合物を提出すれば無料で抗結核薬候補の前スクリーニングと有効性試験を行っている。

 PA−824開発に関するNIAIDの支援には,@リサーチトライアングル研究所(RTI)インターナショナル(ノースカロライナ州リサーチトライアングルパーク)のDoris Rouse博士との契約で,技術移転支援とPA−824の前臨床試験に関するプロジェクト管理を行う(ヨコロラド州立大学(コロラド州フオートコリンズ)のIan Orme博士との契約で,結核感染の動物モデルでのPA−824に関する有効性を確かめる−ことが含まれる。

 NIAIDのエイズ部門で合併症と重感染担当のBarbara Laughon博士は,「前臨床試験でPA−824のいくつかの特徴が判明したので,ヒトの結核に対する有効性について楽観視できるようになった」と述べている。

多剤耐性菌にも活性
 PA−824は,活発に分裂するタイプとゆっくり成長するタイプの結核菌の両方に対する活性に加えて,薬剤感受性菌と多剤耐性菌の両方に対して活性を示す証拠が見られる。また,動物実験では経口投与された1回分のPA−824は肺や脾臓といった標的器官に迅速に到達した。TBAllianceとNIAIDからの支援を受けたジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)のJacques Grosset,William Bishaiの両博士は,PA−824が動物の感染モデルで,結核の第一選択薬イソニアジドやrifampinと同様の殺菌効果があることを見出した。

 さらに,PA−824には特定の肝臓酵素との相互作用が欠けていると見られるため,HIVと結核に感染している場合笠も安全であるとされる。現在,このような患者にリファンピシンと抗レトロウイルス薬を同時投与すると副作用が生じる可能性がある。

 Laughon博士は「新しい抗結核薬候補が臨床試験段階に入ったことにより,官民協力の価値だけでなく,NIAIDがこの段階までPA−824を準備する抗結核薬開発契約の仕組みは重要な役割を果たすことが明らかになった」と述べた。

 TB AllianceのMaria C.Freire,CEO兼社長は「われわれはパートナー,資金提供者,契約者と創造的で賢明な関係を保っており,RTIインターナショナルの専門的な管理技術とNIAIDの献身を結び付けることで技術をさらに前進させてきた。その結果,有望な結核化合物が記録的な速さで臨床試験段階に入ることができた」と述べた。

 TB Allianceは非営利の官民パートナーシップ組織で,妥当なコストによる新しい治療法の発見や開発により結核管理の革命化が国際的に求められているなか,活動性結核治療の単純化による期間短縮のほか,多剤耐性結核の克服や,HIV/エイズと結核との同時治療を可能にすることなどに取り組んでいる。
参考)
PA-824はニトロイミダゾピラン構造を持つ化合物で作用メカニズムは、多剤耐性結核に効果が期待される。結核とHIVを一緒に治療する場合に抗レトロウイルス剤との併用が可能である。

@ 結核菌のタンパク質の生合成および細胞壁脂質ミコール酸の生合成(hydroxymycolateからketo-mycolate への酸化過程)を同時に阻害する2つの作用機序をもつ。
A PA-824 は結核菌の対数増殖期(活動期)にも発育停止期(静止期)にも殺菌的な活性を示し、多剤耐性結核菌に対しても感受性結核菌に対するのと同様に強い抗菌力を発揮する。
B既存薬との間に交叉耐性が認められていない。

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