結核の陰にアスペルギルス
既往者の喀血では真っ先に疑え
Nikkei Medical  2005.11
  結核の既往がある患者が再燃を疑わせる症状を示した場合、その原因が肺アスペルギローマであることは多い。この疾患は各種検査でも 診断しにくく、「疑うことができるか」がすべての鍵を握る。

 国立病院機構西別府病院(大分県別府市)内科の財前行宏氏が経験した患者は、咳嗽と血痰を主訴に、胸部]線で左下肺野に辺縁が明瞭な浸潤影を認め、白血球数1万3200/ml、IgA値496mg/dLと上昇した42歳の男性。

 喀痰検査で結核菌は検出されなかったものの、結核は一般細菌感染と比較して菌数が少ないことを考慮して上記の症状、検査結果により結核と診断、抗結核薬を投薬した。だが画像所見は改善せず、入院1カ月、喀痰培養でアスペルギルス菌が検出された。

 結核などで肺に空洞ができていると、真菌症の一種である肺アスペルギローマのリスクがあることは教科書的には知られている。この男性は小児期に百日咳を発症しており、その気管支拡張部分を病巣に発症したと考えられた。

 だが、この疾患は、血清抗体や真菌培養でも反応が出にくく、診断が難しい。ともすると見逃してしまうことにもなりかねない。国立療養所の流れをくむ西別府病院で、結核や肺アスペルギローマに触れる機会の多い財前氏をもってしても、「入院時にもアスペルギルス抗原が陰性であることは確認していた。これ以上の早期診断・治療は難しかった」と話す。 アスペルギルス(Aspergillus)属は、日和見感染症(侵襲性アスペルギルス症)の起炎菌として注目を集めるごく一般的に存在するカビだが、肺の器質的な病変部に定着すると肺アスペルギローマとなる。こちらはプライマリケアの現場で無視できない疾患だ。

 国立病院機構東京病院(東京都清瀬市)呼吸器科医長の赤川志のぶ氏も「結核の再燃と紹介されてくる患者で、実は肺アスペルギローマという見逃し症例は多い」と語る。

 結核などの既往がある患者が発熱や咳、喀血といった症状を示した場合、鑑別に挙がるのは、
@肺アスペルギローマ
A非定型抗酸菌症
B結核の再燃
C緑膿菌感染症
−など。そして「この中では肺アスペルギローマが頻度的に多い」(赤川氏)。財前氏も「当院では年に200例程度の結核患者を診ているが、中に10例程度は肺アスペルギローマの患者が混じっている」と話す。


検査だけでは診断できず
 2003年に発行された「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン」(深在性真菌症のガイドライン作成委員会編、医歯薬出版)では肺アスペルギローマの診断・治療についてもまとめている。作成委員長を務めた長崎大第2内科教授の河野茂氏は「CRPや白血球数、赤沈といった検査数値はわずかに上昇する程度。まずは]線写真で疑う以外にない」と語る。

 ]線写真で鑑別のポイントとなるのは、重要な順から、@空洞壁や胸膜の肥厚の出現A鏡面形成B空洞周囲の浸潤影−の3点。

 典型的な症例は空洞に菌球を形成するが、「菌球がある場合、側臥位で]線を撮影するとその位置が動いて見える。そのような疾患はほかにないため、診断が付く」(北里大病理学教室講師の久米光氏)。体位を変えた撮影は菌球の確認以外にも有効だ。正面像では分かりにくい浸潤影が、側面像で分かる場合もある。
 
 いずれにしても肺アスペルギローマは多くの場合、症状が急激に重篤化することはない。そのため、38℃程度の発熱が続き膿性痰がある場合は、「まず抗菌薬を投与してみて、症状が改善しない場合に肺アスペル、ギローマを疑えばいい」(東京病院臨床研究部部長の倉島篤行氏)というのが現実的な対応のようだ。

 肺アスペルギルス症治療の第1選択は外科的治療だ。「抗真菌薬による内科的治療は再発のリスクがある上、菌球の状態で症状に変化がない場合は効果も小さい」(倉島氏)。
ただし外科的治療は、@肺機能が正常A菌が限局しているB異常は片方の肺のみ一を満たす場合に適応となる。呼吸器疾患の既往がある患者が躍患するため、外科的治療の適応がある患者は多くない。

 その場合は抗真菌薬で治療を行うことになる(ブイフェンド(ポリコナゾール)」を参照)。新薬の登場が相次ぐこの分野だが、イトラコナゾールやポリコナゾールなどアゾール系の真菌薬はリフアンシピン系の結核薬などとの併用が禁忌とされる。既に結核薬などを授与していた場合、「中止して3日程度空ければ、抗真菌薬の投与は可能だ」(久米氏)

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